道路交通法七二条一項の規定と憲法三八条一項
憲法38条1項,道交法72条1項
判旨
道路交通法72条1項の救護義務及び報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反せず、また全運転者に一律に課されるものであるから憲法14条の平等原則にも反しない。
問題の所在(論点)
道路交通法72条1項が定める車両等の運転者の救護義務及び報告義務が、憲法38条1項(自己負罪拒否特権)及び憲法14条(平等原則)に違反するか否か。
規範
憲法38条1項は、何人も自己に不利益な供述を強要されないと規定するが、交通事故における救護義務及び報告義務は、道路交通の安全確保という公共の福祉に基づく合理的な目的を有するものであり、その限度において適法である。また、憲法14条に関しては、法律の規定が特定の集団に対し合理的な根拠なく差別的な取り扱いを定めていない限り、憲法違反とはならない。
重要事実
被告人は、道路交通法違反(救護義務・報告義務違反等)に問われた事件において、同法72条1項が定める事故発生時の義務は、事故を起こした運転者に対して自己の刑事責任に関わる事項を報告させるものであり、憲法38条1項(自己負罪拒否特権)に違反すると主張した。また、特定の義務を課すことが憲法14条(平等原則)に違反するとも主張して上告した。
あてはめ
まず憲法38条1項について、先行判例(昭和37年5月2日大法廷判決)の趣旨に照らせば、本規定は道路交通の安全確保等の行政上の目的のために課されたものであり、自己の刑事責任を追及する趣旨のものではない。したがって、憲法38条1項の保障の範囲外またはその合理的な制限の範囲内といえる。次に憲法14条について、同条項の義務は「車両等の運転者のすべて」に対して等しく課されているものであり、特定の属性に基づく不当な差別待遇を設けているとは解されない。
事件番号: 昭和44(あ)1617 / 裁判年月日: 昭和44年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法上の報告義務(72条1項後段)は、交通事故の内容を警察官に報告させるものであるが、それは事後の適正な交通規制や被害者の救護を目的とするものであり、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に反しない。 第1 事案の概要:被告人は道路交通法違反(ひき逃げ等)の事案において、同法72条1項後段が定める…
結論
道路交通法72条1項の規定は、憲法38条1項及び憲法14条のいずれにも違反しない。
実務上の射程
本判決は既定の判例法理を再確認したものである。答案上では、行政上の目的による報告義務が自己負罪拒否特権を侵害するかどうかが論点となる場合に、先行の大法廷判決を引用する形で「目的が合理的であり、供述の強制が刑事責任の追及を直接の目的とするものでない限り合憲である」とする論理の一助として用いる。
事件番号: 昭和46(あ)2164 / 裁判年月日: 昭和48年2月27日 / 結論: 棄却
道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号が憲法三八条一項に違反しないことは、当裁判所昭和三七年五月二日大法廷判決(刑集一六巻五号四九五頁)の趣旨に照らして明らかである。
事件番号: 昭和62(あ)151 / 裁判年月日: 昭和62年5月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に規定する報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、道路交通法違反(報告義務違反等)の罪で起訴された。弁護人は、道路交通法72条1項後段が定める交通事故発生時の警察官への報告義務が、憲法38条1項が保障する自己負罪拒否特権に抵触…
事件番号: 昭和49(あ)1220 / 裁判年月日: 昭和50年6月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に定められた交通事故の報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。 第1 事案の概要:本件の上告人は、道路交通法72条1項後段に基づく事故報告義務を怠ったこと(同法119条1項10号違反)等について刑事責任を問われたが、当該報告義務の規定が憲法38条1項(自己…
事件番号: 昭和44(あ)2632 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に規定される報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、交通事故を発生させた際、道路交通法72条1項後段に基づく警察官への報告義務を果たさなかった。これに対し、被告人は当該報告義務の強制が憲法38条1項が保障する「自己に不利益な供…