いわゆる「Aちやん」事件の保護処分の取消申立に関する「差戻後の」再抗告事件
判旨
少年法27条の2第1項に基づく保護処分の取消しが認められるためには、確定審判の非行事実の認定を覆すに足りる、審判権がなかったことを認め得る明らかな資料が必要である。本件では、当初の自白の任意性・信用性が高く、後出の否認供述や新証拠(ナイフ)に不自然な点があることから、同要件を充たさないと判断された。
問題の所在(論点)
少年法27条の2第1項に基づく保護処分の取消事由である「少年に対する審判権がなかったことを認め得る明らかな資料」の意義、及び当初の自白と後出の否認供述・新証拠のいずれを重視すべきか。
規範
少年法27条の2第1項に規定される「少年に対する審判権がなかったことを認め得る明らかな資料が発見された場合」とは、確定審判において認定された非行事実の存否に関し、その認定を覆すに足りる確実かつ客観的な証拠が新たに現れた場合を指す。自白の信用性を判断するにあたっては、供述の任意性、客観的事実との合致、体験者でなければ供述し得ない事実(秘密の暴露)の有無、及び否認に転じた経緯の合理性を総合的に考慮すべきである。
重要事実
強盗殺人等の非行事実により少年院送致の保護処分を受けた少年が、収容から9か月経過後に、当初の自白を翻して非行を否認した。少年側は、自宅から凶器と同種同型のナイフを新たに発見したこと等を「明らかな資料」として保護処分の取消しを求めた。しかし、少年は当初の事情聴取から家庭裁判所の審判まで一貫して自白を維持しており、その内容は客観的な足跡や現場状況と合致し、かつ具体的詳細なものであった。また、新発見とされるナイフは容易に入手可能な市販品であり、否認供述には変転や矛盾が見られた。
あてはめ
まず、少年の当初の自白は、録音内容から迎合や畏怖がなく極めて自然に行われており、実母や教諭に対しても同様の告白をしていることから、任意性と高度の信用性が認められる。現場近くでの目撃証言、足跡の酷似、凶器と同種ナイフの購入事実といった補強証拠も存在し、自白の信用性を高めている。これに対し、収容後の否認供述は面会者による慫慂が疑われる不透明な状況下でなされ、内容も客観的事実と齟齬し、変転が著しく不自然である。新たに発見されたナイフについても、真犯人であれば捜査段階でその存在を主張できたはずであり、容易に入手可能な物品であることも考慮すれば、確定審判の認定を覆すに足りる証拠価値はない。
事件番号: 平成2(し)141 / 裁判年月日: 平成3年5月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】少年法27条の2第1項に基づく保護処分の取消しは、将来に向かって少年を保護処分から解放する手続であり、保護処分が継続中である場合に限り許される。 第1 事案の概要:少年らは保護処分を受けたが、その基礎となった非行事実が存在しないと主張して保護処分の取消しを求めた。しかし、抗告審の継続中に一部の申立…
結論
本件における否認供述や新発見のナイフは、確定審判の非行事実の認定を覆すに足りるものとは認められず、少年法27条の2第1項にいう「明らかな資料」には当たらない。したがって、保護処分の取消しを認めなかった原決定は正当である。
実務上の射程
保護処分の取消手続における「審判権がなかったことを認め得る明らかな資料」の判断基準を示した事例である。刑事訴訟法上の再審における「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(435条6号)と概ね同様の枠組みで、新証拠の明白性を判断する際の指針となる。特に自白の信用性判断において、録音の状況、補強証拠との合致、否認に至る経緯の合理性を重視する実務上の考慮要素を確認するのに有用である。
事件番号: 平成6(し)94 / 裁判年月日: 平成6年9月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】少年法27条の2第1項に基づく保護処分の取消しは、保護処分が継続中である場合に限り許され、処分の終了後は、非行事実の不存在を理由とする取消しは認められない。 第1 事案の概要:本件において、抗告人は、保護処分の決定が確定した後にその処分の基礎とされた非行事実が存在しないことが明らかになったとして、…
事件番号: 平成7(し)7 / 裁判年月日: 平成7年2月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】少年法27条の2第1項に基づく保護処分の取消しは、保護処分が継続中である場合に限り許され、処分終了後には認められない。同規定は少年を将来に向かって保護処分から解放することを目的とするものであり、少年の名誉回復を目的とするものではない。 第1 事案の概要:本件は、既に保護処分が終了した元少年が、保護…
事件番号: 平成22(し)145 / 裁判年月日: 平成23年12月19日 / 結論: 棄却
1 保護処分決定で認定された日には非行事実の存在が認められないが,これと異なる日に同一内容の非行事実が認められ,両事実が両立しない関係にあって事実の同一性が認められる場合には,少年法27条の2第2項により保護処分を取り消さなければならないときには当たらない。 2 保護処分取消し申立て事件において,事実の同一性のある範囲…
事件番号: 平成4(し)103 / 裁判年月日: 平成4年12月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】少年法27条の2第1項に基づく保護処分の取消しは、保護処分が現に継続中である場合に限り許され、少年の名誉回復を目的とするものではない。 第1 事案の概要:少年に対して保護処分の決定がなされ、その後に決定が確定した。その後、処分の基礎とされた非行事実が存在しなかったことが明らかにされた(と主張された…