犯行時及び判決言渡し時に保護観察付執行猶予期間中の被告人に対しては再度刑の執行を猶予することができない。
犯行時及び判決言渡し時に保護観察付執行猶予期間中であつた者に対し執行猶予付懲役刑を言い渡した原判決が職権により破棄差戻された事例
刑法25条,刑法25条ノ2,刑訴法411条,刑訴法413条本文
判旨
保護観察付執行猶予の期間中である者に対し刑法25条2項但書に基づき再度の執行猶予を付すことはできない。裁判所が、供述調書等から容易にその前科の存在を確認できたにもかかわらず、審理を尽くさず執行猶予を言い渡した場合は、判決に影響を及ぼす事実誤認及び法令適用の誤りがある。
問題の所在(論点)
保護観察付執行猶予の期間中に罪を犯した者に対し、再度の執行猶予を付すことができるか。また、記録上、執行猶予の障害事由が容易に判明し得る状況において、これを看過して執行猶予を付した原判決に審理不尽・事実誤認・法令適用の誤りがあるか。
規範
刑法25条2項但書は、同条1項の規定により刑の執行を猶予された者がその猶予の期間中さらに罪を犯した場合において、その者が「保護観察に付せられ、その期間中にさらに罪を犯したとき」は、再度の執行猶予を付することができない旨を規定している。また、事実認定に際しては、記録上の証拠(供述調書等)から障害事由の存在を疑うに足りる事情がある場合には、検察官に立証を促す等の方法を講じて審理を尽くすべき義務がある。
重要事実
被告人は詐欺罪に問われたが、本件犯行時、既に別の窃盗罪により懲役1年6月、執行猶予4年、保護観察付きの判決を受け、その執行猶予期間中であった。第一審の記録に含まれる被告人の供述調書には、右の保護観察付執行猶予の判決を受けた旨の記載があった。しかし、原審は当該前科の記載がない前科調書のみを調査し、障害事由がないものとして懲役6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。
あてはめ
被告人は保護観察付執行猶予の期間中に本件犯行に及んでおり、刑法25条2項但書に該当するため、再度の執行猶予を付すことは法律上不可能である。原審は、障害事由の記載がない不完全な前科調書のみに基づき判断したが、記録上の供述調書には障害事由を示唆する具体的な記載が存在した。それゆえ、検察官に立証を促すなどの措置を講じれば容易に判明したはずの前科を確認しなかったことは、審理不尽による事実誤認といえる。その結果として執行猶予を付したことは、刑法25条の適用誤りであり、正義に反する著しい誤りである。
結論
再度の執行猶予は付せず、原判決には審理不尽・事実誤認・法令適用の誤りがあるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
執行猶予の要件(刑法25条)の適否に関する裁判所の審理義務の範囲を示す。特に、不完全な前科調書に依拠せず、供述調書等他の記録から障害事由が疑われる場合には、釈明権の行使等により実体的真実を把握すべき職務上の義務があることを強調する際に用いる。
事件番号: 昭和25(あ)1670 / 裁判年月日: 昭和26年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行猶予を付すか否かは、裁判所の広範な自由裁量に属する事項である。したがって、被告人に執行猶予を付さなかった原判決の判断に審理不尽の違法があるとは認められない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、原判決が被告人に対し執行猶予を付さなかったことについて、尽くすべき審理を尽くしておらず、最高裁の…