本件は第一審で昭和二三年六月一七日被告人に對し懲役一年三年間執行猶豫の有罪判決を言渡したところ、被告人は控訴の申立をなし、第二審檢事は附帶控訴をし、原審は審理の結果昭和二四年一一月一七日被告人に對し懲役六月、三年間執行猶豫の判決を言渡したものであることは記録上明らかである。ところが原審昭和二四年一一月一〇日の公判調書をみると被告人は本件以外に猪を買つたことで事件を起し昭和二四年四月から刑務所において服役中である趣旨の供述をしているのであつて右公判調書の記載と上告趣旨書添付の判決謄本とを綜合すれば被告人は昭和二四年四月二一日津地裁上野支部で懲役一年六月に處せられ現在三重刑務所において服役中であることが判る。然らば被告人は刑法第二五條第一號に該當しないのであるから本件はは執行猶豫を付し得ない案件であるに拘わらず原審は被告人の前示公判廷の供述にかかる處刑の事實につき審究するところなくたやすく執行猶 豫を附したことは審理不盡の違法あり破棄を免れない。
刑務所において受刑中である旨を供述している被告人に對する執行猶豫の言渡と破棄の理由となる審理不盡の違法
刑法25條1號,舊刑訴法411條
判旨
被告人が公判廷で別件の服役事実を供述している場合、裁判所は刑法25条の執行猶予要件(前科の有無)を審究すべき義務があり、これを確認せずに執行猶予を付すことは審理不尽の違法にあたる。
問題の所在(論点)
被告人が公判廷において別件での服役事実を自ら供述している場合、裁判所は刑法25条の執行猶予要件の有無について審究すべき義務を負うか、およびその義務を怠った場合の法的評価が問題となる。
規範
刑法25条1号の「前ニ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルコトナキ者」という執行猶予の欠格事由について、被告人の供述等からその存在が疑われる場合には、裁判所は当該事実を審究しなければならず、これを怠って執行猶予を付すことは審理不尽の違法を構成する。
重要事実
被告人は第一審で懲役1年、執行猶予3年の判決を受けた。原審(控訴審)の公判廷において、被告人は「本件以外に猪を買ったことで事件を起し、昭和24年4月から三重刑務所において服役中である」旨を供述した。しかし、原審は被告人の供述にかかる処刑・服役の事実について詳細を審究することなく、被告人に対し懲役6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。検察官は、被告人が刑法25条1号の欠格事由に該当するとして上告した。
あてはめ
記録上の公判調書によれば、被告人は本件以外の別件で既に懲役1年6月の判決を受け、現に服役中であることが明らかである。そうであれば、被告人は刑法25条1号にいう「前ニ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルコトナキ者」には該当せず、法律上執行猶予を付し得ない案件である。原審は、被告人が自ら供述した処刑の事実について十分な審究を行わず、安易に執行猶予を付しており、これは裁判所に求められる審理の尽くし方として不十分であるといえる。
結論
原審の判断には審理不尽の違法があるため、原判決を破棄し、執行猶予要件の有無を再審理させるため本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
本判決は、裁判所が刑罰の執行猶予を付す際の前提条件(適格性)を確認する職権義務の重要性を示している。実務上は、被告人の前科や現在の服役状況について疑義が生じた場合、弁護人や検察官に資料の提出を促すなど、客観的な事実確認を怠ってはならないという指針として機能する。
事件番号: 昭和25(あ)1670 / 裁判年月日: 昭和26年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行猶予を付すか否かは、裁判所の広範な自由裁量に属する事項である。したがって、被告人に執行猶予を付さなかった原判決の判断に審理不尽の違法があるとは認められない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、原判決が被告人に対し執行猶予を付さなかったことについて、尽くすべき審理を尽くしておらず、最高裁の…