公職選挙法違反被告事件において、他の候補関係者を故意に見逃がすことにより不当な差別捜査をしたということを理由とする憲法一四条違反の主張が不適法とされた事例
憲法14条
判旨
他の候補関係者を故意に見逃し、特定の被告人らのみを起訴するなどの不当な差別的捜査がなされたとの主張は、実質的に公訴権の濫用をいう法令違反の主張にあたるが、本件ではその前提となる事実は認められない。
問題の所在(論点)
特定の立場にある者のみを選別的に起訴し、他の関係者を故意に見逃すような「差別的捜査」がなされた場合に、公訴権の濫用として公訴棄却が認められるか、またその立証が認められるか。
規範
検察官の公訴提起が、他の特定の関係者を故意に見逃すなどの不当な差別に基づくものである場合、それは実質的に公訴権の濫用(刑事訴訟法247条、248条違反)を構成し得る。もっとも、その主張が認められるためには、具体的かつ客観的な事実に基づき、捜査・公訴の過程で憲法14条に反するような不当な差別的取扱いがなされたことが立証されなければならない。
重要事実
被告人両名は、立山町議会議員であったところ、公職選挙法違反等の罪で起訴された。被告人側は、町議会議員であることを理由に不利益に取り扱われ、かつ他の候補関係者を故意に見逃すという「差別的な捜査」がなされたと主張し、憲法14条違反および公訴権の濫用を理由に上告した。
あてはめ
被告人側は議員という属性による差別捜査を主張したが、記録上、議員であることを理由に不当な不利益を受けた事実は認められない。また、他の関係者を故意に見逃したという点についても、検察官の裁量を逸脱して憲法14条に違反するような不当な差別捜査・公訴が行われたと認めるに足りる事実は存在しないと判断された。したがって、前提となる差別的事実が認められない以上、公訴権の濫用にはあたらない。
結論
本件各上告を棄却する。差別的捜査の事実は認められず、公訴権の濫用には当たらない。
実務上の射程
差別的公訴(セレクティブ・プロセキューション)を公訴権濫用の一類型として位置づける際の重要な参照判例である。答案上では、公訴権濫用論を論じる際に「差別的意図」と「事実上の差別的結果」の有無を検討する指標として用いる。ただし、本決定のように事実認定のハードルは極めて高い点に留意が必要である。
事件番号: 昭和56(あ)690 / 裁判年月日: 昭和56年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官による公訴提起等の処分が、被告人の思想、信条、社会的身分又は門地などを理由になされた事実は認められず、憲法14条及び31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が公訴提起等について上告し、自身の思想や信条、社会的身分等を理由に、他の一般的な事案と比較して不当に不利益な取扱いを受けたと主張し…