被告人自身に対する警察の捜査が刑訴法にのつとり適正に行われており、被告人が、その思想、信条、社会的身分又は門地などを理由に、一般の場合に比べ捜査上不当に不利益に取り扱われたものでないときは、かりに、当該被疑事実につき被告人と対向的な共犯関係に立つ疑いのある者の一部が、警察段階の捜査において不当に有利な取扱いを受け、事実上刑事訴追を免れるという事実があつたとしても、そのために、被告人自身に対する捜査手続が憲法一四条に違反することになるものではない。
被告人と対向的な共犯関係に立つ疑いのある者の一部が警察段階の捜査において不当に有利な取扱いを受けた場合と被告人自身に対する捜査手続の合憲性
憲法14条,刑訴法338条4号
判旨
警察段階で対向的共犯者の一方が不当に有利に取り扱われたとしても、被告人自身への捜査が適正かつ非差別的に行われ、検察官の公訴提起に裁量権逸脱がない限り、憲法14条・31条違反による公訴棄却は認められない。
問題の所在(論点)
対向的共犯者の一方が警察段階の差別的な捜査によって訴追を免れた場合、適正に捜査・起訴された他方の被告人に対する公訴提起は、憲法14条・31条に違反し無効(公訴棄却)となるか。
規範
被告人に対する警察の捜査が刑事訴訟法に則り適正に行われ、かつ被告人の思想、信条、社会的身分等を理由に不当な差別がなされていない場合、たとえ対向的な共犯関係にある他者が警察段階の捜査において不当に有利な取扱いを受け事実上刑事訴追を免れたとしても、被告人に対する捜査手続が憲法14条に違反することはない。また、検察段階の措置において不当な差別や裁量権の逸脱が認められない限り、公訴提起の効力が否定されることもない。
重要事実
町長選挙の当選者Aの選挙運動員であった被告人は、Aの長男から報酬として現金を受領した等の公職選挙法違反の事実で起訴された。原審は、警察が共謀関係の疑いが強いAを社会的身分の高さから不当に有利に取り扱い、意図的に捜査を手控えて検察官送致もしなかった「偏頗な捜査」があったと認定。これは憲法14条に違反し、かかる差別的捜査に基づく公訴提起は憲法31条違反として、刑訴法338条4号を類推適用し公訴を棄却した。検察官が上告。
あてはめ
本件において、警察は被告人の自首に基づき適正に捜査を開始しており、被告人の思想や身分を理由に不当な不利益を与えた事実は認められない。仮に原審が認定するように、対向的共犯者であるAに対し警察が不当に有利な意図をもって捜査を手控えた事実があったとしても、それは被告人自身の捜査手続を違憲とする理由にはならない。また、検察段階での公訴提起自体には不当な差別や裁量権の逸脱はないと認められる。したがって、被告人に対する公訴提起を無効とすべき事由は存在しない。
結論
被告人に対する公訴提起は有効である。原判決を破棄し、第一審の有罪判決を維持して被告人の控訴を棄却する。
実務上の射程
「検察官の裁量権逸脱による公訴棄却」の可否を論じる際の限定的な射程を示す判例である。公訴提起自体の適法性は、あくまで当該被告人に対する手続の適正さと検察官の裁量判断によって決まり、他者の不訴追という比較対象の存在のみをもって直ちに違憲・違法とはならないことを示す。実務上、公訴棄却が認められるのは「被告人自身への差別」や「極めて重大な裁量権逸脱」がある場合に限られる。
事件番号: 昭和58(あ)137 / 裁判年月日: 昭和58年9月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官の公訴権の行使が、特定の政治的信条に基づく差別的なものである等、憲法14条や44条に違反する特段の事情がない限り、公訴提起の判断は検察官の裁量に委ねられる。 第1 事案の概要:被告人らに対し、公職選挙法違反等(詳細は判決文からは不明)に係る公訴が提起された。これに対し、被告人側は、検察官によ…