銀行に対する本件一円振込み行動は、使用者対被使用者の関係を前提とする憲法二八条の権利行使にあたらない。
銀行に対する一円振込み行動が憲法二八条の権利行使にあたらないとされた事例
憲法28条,刑法234条
判旨
憲法28条が保障する労働基本権は、使用者と被使用者の関係を前提とするものである。したがって、使用者以外の第三者に対して行われる行為は、同条による保障の対象にはならない。
問題の所在(論点)
憲法28条の労働基本権の保障は、使用者と被使用者の関係がない第三者に対する行為にも及ぶか。また、それによって当該行為の刑事責任が免じられるか。
規範
憲法28条が保障する団結権、団体交渉権、および団体行動権は、使用者対被使用者という労使関係を前提とする権利である。したがって、正当な争議行為等として刑免責(刑法35条)が認められるためには、当該行為が自己の雇用主である使用者に対して行われることを要する。
重要事実
被告人らは、A銀行本所支店に対して一定の行為(具体的な態様は判決文からは不明)に及んだが、当該銀行は被告人らにとっての「使用者」にあたる関係にはなかった。被告人らは、本件行為が憲法28条に保障された権利の行使であるとして、その違法性が阻却される旨を主張して上告した。
あてはめ
憲法28条の趣旨は、労使間の対等性を確保するために労働者の団体行動を保障する点にある。本件において、被告人らが行為の対象としたA銀行は、被告人らとの間に「使用者対被使用者」という関係が存在しない。このように労使関係が存在しない第三者に対する行為は、同条が予定する権利行使の範囲外であると判断される。よって、本件行為が憲法28条の保障を受けることを前提とする被告人らの主張は、その前提を欠いているといえる。
結論
本件行為は、使用者に対するものではないため、憲法28条の保障する権利の行使には該当せず、上告は棄却される。
実務上の射程
労働事件における刑免責の範囲を確定する際に用いる。争議行為が第三者(顧客や取引先等)の業務を妨害した場合、それが「使用者に対する正当な争議行為」の付随的結果といえるか、あるいは本件のように「第三者そのものを対象とした行為」として保障外となるかを区別する指標となる。
事件番号: 昭和31(あ)306 / 裁判年月日: 昭和33年6月20日 / 結論: 棄却
被告人らが駐留軍横浜陸上輸送部隊と争議中、同部隊バス通用門から争議に参加しなかつた同部隊勤務の日本人運転手A外五人が駐留軍軍人、軍属らを輸送するためa駅に赴くべく各一台のバスを運転し一列縦隊で順次出門しようとするや、右通用門の前にピケラインを張つていた組合員約三〇名位と共謀の上、その出門を阻止しようとして右門前において…
事件番号: 昭和30(あ)1817 / 裁判年月日: 昭和35年5月26日 / 結論: 棄却
炭鉱において鉱員と職員とが分かれてそれぞれ労働組合と職員組合とに属している場合に、労働組合のみがストライキ実行中、争議行為に加わつていない職員が就業のため出勤するに際し、労働組合員がスクラムを組み体当りを以つて職員を押し返したときは、威力業務妨害罪を構成する。