死刑事件(保険金目的殺人事件)
判旨
保険金殺人を目的とした執拗かつ悪質非道な一連の犯行において、主謀者の一人として犯行を推進した被告人に対し、死刑を適用することは不当ではない。
問題の所在(論点)
生命を奪う究極の刑罰である死刑を適用するにあたり、本件のような複数の未遂・予備を含む一連の保険金殺人事件において、被告人の関与の程度や犯行の態様が死刑を選択すべきほどに重責といえるか。
規範
死刑の選択に際しては、犯罪の性質、動機、態様、特に殺意の執拗性や残虐性、結果の重大性(殺害人数のほか、遺族の被害感情)、さらには被告人の社会的影響、前科、犯行後の情状等を総合的に考慮し、その罪責が極めて重大であって、罪罰の均衡および一般予防の見地からやむを得ないと認められる場合に許される。
重要事実
被告人は、共犯者Aらと共謀し、巨額の保険金を騙し取る目的で複数の役員を標的とした。第一の計画では、代表役員を溺死させるべく3回にわたり殺人の予備を行ったが未遂。第二の計画では、別の役員を自動車で轢殺しようとし、重傷を負わせるにとどまった(殺人未遂)。第三の計画では、別の役員を誘い出して絞殺し死体を遺棄(殺人・死体遺棄)。その後、他殺を装い保険金を請求したが、不審を抱かれ未遂に終わった(詐欺未遂)。被告人は一連の犯行において終始主謀者の一人として関与した。
あてはめ
本件は、保険金目的という利欲的動機に基づき、複数の対象を執拗に狙った極めて悪質非道な事犯である。被告人は単なる従属的な実行犯ではなく、終始主謀者の一人として犯行を積極的に推し進めており、犯行における寄与度が極めて高い。計画的な殺人予備や未遂を繰り返した末に、実際に一人を絞殺するという結果を惹起しており、犯行の執拗性が顕著である。また、被告人の前科や遺族の被害感情を鑑みても、その罪責は誠に重大である。これらの諸点に照らせば、原判決の死刑の科刑は、刑の均衡を失するものとはいえない。
事件番号: 昭和63(あ)589 / 裁判年月日: 平成8年9月20日 / 結論: 破棄自判
保険金を騙取する目的で、暴力団幹部と共謀して殺人予備、殺人未遂、殺人等の罪を犯すなどしたという本件事案の性質や罪質の重大性、一連の犯行は、被告人が発案し暴力団幹部に計画を持ち掛けたのを契機として企図され、実行に移されたもので、被告人は、各被害者に保険を掛けるなどしたほか、直接殺人予備行為をし、保険金を騙取したり保険会社…
結論
被告人に対する死刑の科刑は是認されるべきであり、上告を棄却する。
実務上の射程
死刑選択の基準(永山基準)に基づき、特に保険金殺人という利欲的動機の悪質性、主謀者としての役割、および犯行の執拗性を強調して、一人殺害のケースでも死刑が維持され得ることを示す。司法試験においては、量刑の妥当性を論じる際の総合考慮の枠組みとして活用できる。
事件番号: 平成12(あ)1634 / 裁判年月日: 平成16年11月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保険金目的の殺人2件を含む事案において、被告人が首謀者として犯行を主導し、冷酷かつ残忍な方法で実行したこと等の情状を重視し、被告人の不遇な成育歴を考慮しても死刑判決を維持した事案である。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、(1)知人男性に保険を掛け殺害し保険金約5014万円を詐取、(2…
事件番号: 平成16(あ)1709 / 裁判年月日: 平成20年1月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保険金目的で2名を殺害し、強盗等を行った事案において、計画的かつ残忍な犯行態様、金銭欲による動機、主導的役割等の事情を重視し、死刑の適用を肯定した。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀し、(1)保険金目的で共犯者の夫を薬物で眠らせた上、海中に沈めて殺害し約9870万円を詐取した。(2)約6年…
事件番号: 昭和55(あ)914 / 裁判年月日: 昭和62年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度は憲法13条、36条に違反せず、死刑の選択については、犯行の性質、動機、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等を総合的に考慮し、やむを得ない場合に許される。 第1 事案の概要:被告人は、実兄と共謀し、保険金目的の妻殺害未遂事件、保険金詐取のための自…
事件番号: 平成17(あ)403 / 裁判年月日: 平成20年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の保険金殺人等の事案において、計画的かつ巧妙な犯行態様、2名の殺害という結果、多額の搾取金額、および被告人の反省の欠如等の諸事情を考慮し、共犯者との刑の均衡を考慮しても死刑の選択はやむを得ない。 第1 事案の概要:被告人は愛人と共謀し、多額の生命保険が掛けられた3名の男性に対し、保険金目的の殺…