保険金を騙取する目的で、暴力団幹部と共謀して殺人予備、殺人未遂、殺人等の罪を犯すなどしたという本件事案の性質や罪質の重大性、一連の犯行は、被告人が発案し暴力団幹部に計画を持ち掛けたのを契機として企図され、実行に移されたもので、被告人は、各被害者に保険を掛けるなどしたほか、直接殺人予備行為をし、保険金を騙取したり保険会社に保険金を支払うよう執ように請求したなど、被告人の果たした役割の重要性等を考慮しても、一連の犯行で殺害されたのは一名であること、被告人が殺人及び殺人未遂の実行行為はもちろん、殺害方法の謀議にも関与していないこと、殺人予備にとどまった当初の一件を除くその後の保険金殺人計画、なかでも最も重大な犯行として死刑が選択された殺人事件の計画についてはむしろ首謀者である暴力団幹部に引きずられていったものであること、被告人には前科がなく、特段の問題行動もなく社会生活を送ってきたこと、暴力団幹部について死刑の判決が確定していることなどを考慮すると、被告人に対し、死刑を選択することがやむを得ないと認められる場合に当たるとはいい難いものがある。
死刑の選択がやむを得ないと認められる場合に当たるとはいい難いとして原判決及び第一審判決が破棄され無期懲役が言い渡された事例
刑法(平成7年法律91号による改正前のもの)11条,刑法(平成7年法律91号による改正前のもの)199条,刑訴法411条2号
判旨
死刑選択の可否は、永山基準に基づく諸要素を総合考慮し、罪責が誠に重大で極刑がやむを得ないと認められる場合に限られる。本件では、保険金目的の殺人等の重大性はあるものの、被告人が実行行為や謀議に直接関与せず、共犯者に主導された側面があること等を重視し、死刑は重きに過ぎると判断された。
問題の所在(論点)
保険金目的の殺人(1名死亡、1名重傷、1名予備)において、犯行を発案し環境を整えたものの、実行行為や具体的謀議に関与せず、共犯者の主導に引きずられた側面がある被告人に対し、死刑を選択することが許されるか(刑罰の量定の適正さ)。
規範
死刑制度を存置する現行法制の下では、①犯行の罪質、②動機、③態様(殺害方法の執拗性・残虐性)、④結果の重大性(特に殺害された被害者数)、⑤遺族の被害感情、⑥社会的影響、⑦犯人の年齢、⑧前科、⑨犯行後の情状等を併せ考察すべきである。これら各般の情状に照らし、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、死刑の選択も許される(永山基準)。
事件番号: 昭和56(あ)1552 / 裁判年月日: 平成元年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保険金殺人を目的とした執拗かつ悪質非道な一連の犯行において、主謀者の一人として犯行を推進した被告人に対し、死刑を適用することは不当ではない。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者Aらと共謀し、巨額の保険金を騙し取る目的で複数の役員を標的とした。第一の計画では、代表役員を溺死させるべく3回にわたり殺人…
重要事実
被告人は共犯者Aと共謀し、保険金目的で3名の殺害を計画。第1の被害者に対しては殺人予備、第2の被害者に対しては殺人未遂に終わったが、第3の被害者を絞殺し、一部の保険金を騙取した。被告人は本件各犯行を発案し保険加入等の準備を整えたが、実際の殺害方法の謀議や実行行為には関与していなかった。第3の被害者殺害については、暴力団関係者であるAが中心となって計画を立て、実行者を指揮していた。被告人には前科がなく、捜査段階から一貫して犯行を否認していた。
あてはめ
本件は計画的かつ残虐な保険金殺人であり、被告人が発案者として果たした役割は重大である。しかし、①殺害された被害者が1名であること、②被告人は実行行為や具体的な殺害方法の謀議に関与していないこと、③当初の計画失敗後は、暴力団資金を必要としたAの主導に被告人が引きずられた側面が否定できず、Aと同等の主導性を認めるには疑問があること、④被告人には前科がないこと、⑤共犯者Aの死刑に対し実行加担者らが無期懲役等に処されていること等の事情を総合すると、極刑がやむを得ないとまではいえない。
結論
被告人を死刑に処した原判決の量刑判断は、重きに過ぎて甚だしく不当であり、これを是認することは著しく正義に反する。したがって、原判決を破棄し、被告人を無期懲役に処する。
実務上の射程
死刑選択の指標である「永山基準」の具体的適用事例として重要である。特に、死者1名の事案において、発案者であっても実行行為への非関与や共犯者との主従関係(主導性の逆転)といった事情が死刑回避の決定的な考慮要素となり得ることを示しており、量刑論における被告人の具体的寄与度の評価手法を学ぶ上で参照すべき判例である。
事件番号: 平成12(あ)1634 / 裁判年月日: 平成16年11月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保険金目的の殺人2件を含む事案において、被告人が首謀者として犯行を主導し、冷酷かつ残忍な方法で実行したこと等の情状を重視し、被告人の不遇な成育歴を考慮しても死刑判決を維持した事案である。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、(1)知人男性に保険を掛け殺害し保険金約5014万円を詐取、(2…
事件番号: 平成16(あ)1709 / 裁判年月日: 平成20年1月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保険金目的で2名を殺害し、強盗等を行った事案において、計画的かつ残忍な犯行態様、金銭欲による動機、主導的役割等の事情を重視し、死刑の適用を肯定した。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀し、(1)保険金目的で共犯者の夫を薬物で眠らせた上、海中に沈めて殺害し約9870万円を詐取した。(2)約6年…
事件番号: 平成17(あ)403 / 裁判年月日: 平成20年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の保険金殺人等の事案において、計画的かつ巧妙な犯行態様、2名の殺害という結果、多額の搾取金額、および被告人の反省の欠如等の諸事情を考慮し、共犯者との刑の均衡を考慮しても死刑の選択はやむを得ない。 第1 事案の概要:被告人は愛人と共謀し、多額の生命保険が掛けられた3名の男性に対し、保険金目的の殺…