上告取下の撤回が許されなかつた事例
判旨
刑事訴訟における上告取下げは、別件の執行猶予期間の満了に関する誤認があったとしても、当然に無効とはならず、一度有効になされた取下げの撤回は認められない。
問題の所在(論点)
上告の取下げがなされた後、その動機に錯誤があったことを理由として、取下げの無効を主張し、またはこれを取り消して訴訟手続を続行させることが認められるか。
規範
刑事手続における訴訟行為は、手続の安定および確実性の要請から、公法上の行為としての性質を有する。そのため、私法上の意思表示に関する理論(錯誤無効等)は原則として適用されず、一度有効に成立した取下げ行為を事後的な事情や動機の錯誤によって撤回することは許されない。
重要事実
被告人は窃盗等の罪で有罪判決を受け、上告を申し立てたが、その後、別件の執行猶予期間がすでに満了したものと誤認し、上告を取り下げた。しかし、実際には執行猶予期間が満了していないことが判明したため、被告人は上告取下げの撤回(復権)を申し立て、上告審の審議継続を求めた。
あてはめ
被告人は「別件の執行猶予期間が満了した」という前提で取下げを行ったが、これは取下げに至る動機ないし前提事実の誤認にすぎない。刑事訴訟手続の明確性の観点から、書面によって有効になされた上告取下げは、その表示された内容に従って効力を生じる。被告人の主張する理由は、取下げを無効とするに足りる法的根拠とはなり得ず、取下げによって訴訟は既に終了している。したがって、もはや撤回を認める余地はないといえる。
結論
上告取下げは有効であり、動機の錯誤を理由とする撤回は認められない。本件上告は取下げにより終了している。
実務上の射程
刑事訴訟手続全般における訴訟行為の安定性を強調する判例である。上訴取下げのほか、公訴棄却を求める申立てや有罪の認否など、一度なされた訴訟行為が動機の錯誤により当然に無効とはならないという議論(手続的確実性)において、否定的な結論を導く際の根拠として機能する。
事件番号: 昭和62(あ)114 / 裁判年月日: 昭和62年12月3日 / 結論: 棄却
誤つて公訴事実の同一性のない訴因の追加を許可し、その訴因についての証拠を取り調べた第一審裁判所は、右誤りを是正するために訴因追加の許可及び証拠の採用を各取消決定をすることができる。
事件番号: 昭和24(れ)1165 / 裁判年月日: 昭和24年9月20日 / 結論: 棄却
本件は被告人から第一審判決に對し上訴(控訴)を申し立て、第二審判決は第一審判決が有罪と認めた窃盜の點については無罪を言渡し、刑も第一審判決が懲役三年だつたのを、第二審判決は懲役一年六月に處したものであつて、すなわち被告人の控訴申立はその理由ありと認められたのである。ところで舊刑訴法第五五六條第一項によれば「上訴申立後ノ…