誤つて公訴事実の同一性のない訴因の追加を許可し、その訴因についての証拠を取り調べた第一審裁判所は、右誤りを是正するために訴因追加の許可及び証拠の採用を各取消決定をすることができる。
誤つて公訴事実の同一性のない訴因の追加及び立証がされた場合の事後措置
刑訴法294条,刑訴法298条,刑訴法312条
判旨
裁判所が誤って公訴事実の同一性がない事実につき訴因追加を許可した場合、明文の規定がなくとも当該許可決定および証拠採用決定を取り消すことができる。また、当該証拠を取り調べた裁判官が引き続き審理に関与しても、憲法31条・37条1項にいう不公平な裁判をするおそれがあるとはいえない。
問題の所在(論点)
1. 刑訴法に明文の規定がない訴因追加許可決定および証拠採用決定の取消決定は認められるか。 2. 誤って採用された証拠を取り調べた裁判官が、その取消し後に引き続き同一事件の審理・判決に関与することは、憲法31条、37条1項に違反するか。
規範
1. 裁判所は、訴訟手続上の誤りを是正するため、明文の規定がなくとも、既になされた訴因追加許可決定や証拠採用決定を取り消すことができる。 2. 証拠調べに関与した裁判官が、その証拠が取り消された後に引き続き審理・判決に関与したとしても、直ちに不公平な裁判をするおそれがあるとは認められず、憲法上の適正手続(31条)及び公平な裁判所の保障(37条1項)に違反しない。
重要事実
第一審裁判所は、元の訴因と併合罪の関係にあり公訴事実の同一性がない事実について、誤って訴因追加を許可した。裁判所は、追加された事実に関する証拠を取り調べた後にこの誤りに気付き、訴因追加許可決定および証拠採用決定をそれぞれ取り消す決定を行った。その後、改めて当該事実が追起訴され、同一の裁判官が追加事実をも含めて審理を重ね、判決を言い渡した。弁護人は、このような取消決定は刑訴法上認められず、かつ一度証拠に触れた裁判官が審理を継続することは不公平であるとして上告した。
事件番号: 昭和61(あ)1418 / 裁判年月日: 昭和62年2月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において、訴訟記録および第一審の証拠のみに基づき直ちに被告事件の犯罪事実を確定して有罪判決を下すことは、適正な事実認定のあり方に照らして制限されるが、本件ではそのような手続上の瑕疵は認められない。 第1 事案の概要:第一審で無罪判決を受けた被告人に対し、控訴審(原審)が有罪判決を言い渡した。…
あてはめ
1. 訴訟手続の適正を期すための誤り是正は裁判所の固有の権能に含まれる。本件では公訴事実の同一性を欠く不適法な訴因追加がなされたため、これを解消するための取消決定は許容されると解すべきである。 2. 裁判官が一度証拠を取り調べた事実はあっても、その後に手続的な瑕疵を是正し、改めて適法な追起訴を経て審理を尽くしている。このような経緯において、当該裁判官が客観的に不公平な裁判をするおそれがあるとはいえず、判例の趣旨に照らしても憲法違反は認められない。
結論
訴因追加許可等の取消決定は適法であり、同一の裁判官による審理の継続も憲法31条、37条1項に違反しない。
実務上の射程
裁判所自らによる手続的瑕疵の是正措置の許容性を示す。答案上では、予断が生じる恐れのある証拠に触れた裁判官の関与(除斥・忌避の類推適用)が論点となる際に、本判例を引用して、適法な手続是正がなされていれば直ちに不公平とはいえないとする反論や再反論の根拠として用いる。
事件番号: 昭和55(あ)2181 / 裁判年月日: 昭和56年2月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同一の犯罪について二重に処罰するものでない限り、量刑上の不利益が生じても憲法39条の二重処罰禁止の規定には違反しない。 第1 事案の概要:被告人が上告審において、量刑の不当性や憲法14条・39条違反を主張した事案。弁護人は、本件の処罰が二重処罰にあたると主張して上告したが、具体的な事案の詳細は本決…
事件番号: 昭和54(あ)236 / 裁判年月日: 昭和54年3月30日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟における上告取下げは、別件の執行猶予期間の満了に関する誤認があったとしても、当然に無効とはならず、一度有効になされた取下げの撤回は認められない。 第1 事案の概要:被告人は窃盗等の罪で有罪判決を受け、上告を申し立てたが、その後、別件の執行猶予期間がすでに満了したものと誤認し、上告を取り下げ…
事件番号: 昭和31(あ)3605 / 裁判年月日: 昭和35年4月19日 / 結論: 棄却
一 収賄罪における賄賂収受の場所の差異につき、起訴状の記載に「東京都北区ab丁目c番地被告人自宅」とあるのを第一審判決で「東京都北区de丁目b、f番地の当時の被告人自宅」と認定するには、訴因変更の手続を要しない。 二 控訴趣意書自体に控訴理由を明示しないで、第一審に提出した弁論要旨と題する書面の記載を援用する旨の控訴趣…
事件番号: 昭和41(あ)2814 / 裁判年月日: 昭和42年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に事実誤認の瑕疵が含まれる場合であっても、他の証拠により犯罪の成立が十分に認められるときは、判決の結果に影響を及ぼすものではないため、上告趣意とはならない。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、約束手形6通を偽造したとして起訴された。原判決は、本件偽造手形6通すべての金額欄が「チェッ…