一 被告人のした上告取下に錯誤があつたとしても、その錯誤が被告人の責に帰することのできない事由に基づくものでないときは、右取下を無効ということはできない。 二 上告が取下によつて終了した以上、その取下の撤回は認められない。
一 錯誤による上告取下の効力 二 上告取下の撤回の適否
刑訴法359条
判旨
上告の取下げは、被告人の責に帰することのできない事由に基づく錯誤がない限り無効とはならず、また、取下げによって訴訟手続が終了した後はその撤回も認められない。
問題の所在(論点)
上告の取下げにおいて、示談交渉の成否に関する判断の誤り(錯誤)がある場合に取下げの無効が認められるか。また、一旦なされた取下げの撤回は認められるか。
規範
訴訟行為に錯誤があった場合、それが被告人の責に帰することのできない事由に基づくものであるときに限り、その無効を主張し得る。また、上告の取下げにより訴訟が終了した後は、当該取下げを撤回することはできない。
重要事実
詐欺被告事件において、被告人は高等裁判所の判決に対し上告したが、一部の被害者としか示談交渉ができないと考え、上告を取り下げた。その後、他の被害者とも話し合いができる見込みが生じたため、錯誤を理由に取下げの無効を主張し、または取下げを撤回して審理の継続を求めた。
事件番号: 昭和54(あ)236 / 裁判年月日: 昭和54年3月30日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟における上告取下げは、別件の執行猶予期間の満了に関する誤認があったとしても、当然に無効とはならず、一度有効になされた取下げの撤回は認められない。 第1 事案の概要:被告人は窃盗等の罪で有罪判決を受け、上告を申し立てたが、その後、別件の執行猶予期間がすでに満了したものと誤認し、上告を取り下げ…
あてはめ
被告人は「一部の被害者としか示談ができない」と判断して自ら取下げを行っているが、これは外部的事情の変化や判断の誤りにすぎず、被告人の責に帰することのできない事由に基づく錯誤とは認められない。したがって取下げは有効である。また、上告の取下げによって訴訟は当然に終了しており、一度終了した手続を復活させる撤回は法的に認められないと解される。
結論
被告人が行った上告取下げは有効であり、その撤回も認められないため、本件上告は取下げにより終了している。
実務上の射程
刑事訴訟手続の安定性を重視し、一度なされた訴訟終了行為(取下げ等)の無効主張には厳格な要件(帰責事由の欠如)を課す実務の確立した立場を示す。答案上は、被告人による訴訟行為の撤回・取消しの可否が問われた際、本判例を根拠に「被告人の責に帰すべからざる事由」の有無を検討する指針として用いる。
事件番号: 平成3(あ)574 / 裁判年月日: 平成3年7月19日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】上訴の取下げによって上訴審の手続は既に終了しているのであるから、その後に取下げを撤回して審議の続行を求めることは認められない。 第1 事案の概要:詐欺未遂および詐欺の被告事件について、被告人は控訴審判決に対し上告を申し立てた。しかし、その後被告人自身が自ら上告を取り下げた。その2日後、被告人は「家…
事件番号: 昭和44(あ)1390 / 裁判年月日: 昭和44年10月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法に明文の規定がなくても、控訴趣意の撤回は法律上許容される。弁護人が被告人名義の控訴趣意を陳述しない旨述べ、被告人が異議を唱えなかった場合、裁判所が当該趣意に判断を示さなくても違法ではない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が控訴を提起し、それぞれ控訴趣意書を提出した。原審の第一回公判…