被告人が経理課長の地位にあつたことを利用して横領等を犯した旨の判示は憲法一四条に違反するとの主張が欠前提とされた事例
憲法14条
判旨
被告人が勤務先の経理課長等の職にあることを情状として考慮することは、社会的身分による不当な差別には当たらず、憲法14条に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人の特定の職位(経理課長等)を情状として考慮することが、憲法14条1項が禁ずる「社会的身分」による不当な差別に該当するか。
規範
憲法14条1項の法の下の平等は、事柄の性質に応じた合理的な根拠のない差別を禁ずる趣旨である。刑事罰の量刑において、犯行の態様、動機、被告人の職責や立場などの諸般の事情を情状として考慮することは、個別の事案に応じた適切な刑罰を科すための合理的な裁量の範囲内であり、不当な差別には当たらない。
重要事実
被告人は勤務先の経理課長などの職にあったが、その職務上の立場を利用して犯罪行為に及んだ。原判決(二審)は、量刑を決定するに際し、被告人が経理課長等の職にあったことを一つの情状として考慮した。これに対し弁護人は、社会的身分によって被告人を不当に差別するものであり、憲法14条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、原判決が被告人の職位を考慮したのは、あくまで被告人がその職務上の立場や利便を利用して犯行に及んだという「犯行の態様」や「責任の重さ」を評価するための情状としてである。これは職位という「社会的身分」そのものを理由として一律に差別的な取り扱いをしたものではなく、具体的な犯罪事実に関連する有利・不利の事情を総合的に判断したに過ぎない。したがって、社会的身分により不当に差別したとの前提を欠く。
結論
被告人の職位を情状として考慮することは、憲法14条に違反しない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟における量刑判断の妥当性、および憲法14条の「差別」の意義が問題となる場面で活用できる。職責の重さや職権の濫用を量刑上考慮することは、憲法上の平等原則に反しないことを確認した短文の決定であるため、答案上は量刑の合理性を肯定する際の根拠として簡潔に引用するにとどめる。
事件番号: 昭和31(あ)1113 / 裁判年月日: 昭和34年9月22日 / 結論: 棄却
刑法第一五八条第一項の偽造公文書行使罪の法定刑が同法第一六一条第一項の偽造私文書行使罪のそれより重いのは、その保護法益である公文書の信頼度が私文書のそれより高いことに基くものであつて、その文書作成名義者の身分による差別ではない。
事件番号: 昭和27(あ)114 / 裁判年月日: 昭和28年6月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共同被告人間に刑の軽重の差が生じても、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の情状及び犯後の情況等を斟酌した結果であれば、憲法14条の法の下の平等に違反しない。 第1 事案の概要:共同被告人として起訴された被告人らに対し、原審は実刑を言い渡した。これに対し被告人側は、他の被告人との比較において刑の量定に差が…
事件番号: 昭和27(あ)6469 / 裁判年月日: 昭和28年5月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯情の類似した犯人の間で処断刑に差異が生じても、直ちに憲法14条の法の下の平等に反するものではない。また、憲法37条1項にいう公平な裁判所とは、その組織構成において偏頗の恐れのない裁判所を指す。 第1 事案の概要:上告人は、犯情の類似した他の犯人と比較して、自らに科された刑罰が重いこと(量刑の不均…