一 刑訴第三九二条第二項は同条所定の事由に関し、控訴審に職権調査の義務を課したものでないことは当裁判所の判例とするところである。(昭和二五年(み)第五号、同年一一月一六日第一小法廷決定)。 二 原判決には論旨の摘録するような記載があるけれども、原判決を熟読吟味すると、その趣旨とするところは、被告人の年令、経歴、公務員としての独立に伴う社会的、道義的責任は弱年の小吏に比して遥かに重いものであり、当時の被告人の家庭的、経済的事情や犯情を併せ考慮すると、控訴趣意において主張されたような被告人にとつて有利な事情を斟酌しても、その情状はなお決して軽いものではないとことを示したものと解するのが相当であり、所論のように公務員中比較的高い地位を有する者と小吏とを抽象的に区別して、仮に被告人が小吏であつたとしたならば刑の執行猶予を言い渡すべきであるが、高い地位を有する者の犯行なるが故に、他に如何なる有利な事情があろうとも執行猶予を与うべきでないとの趣旨を判示したものと解すべきではない。即ち論旨はその前提において原判決の趣旨を誤解したものであり、犯情によつて、犯人の処遇を異にしても、何ら憲法第一四条に違反するものでないと解すべきことは当裁判所の判例の趣旨とするところである。
一 刑訴法第三九二条第二項と控訴審の職権調査義務 二 量刑の当否を判断する一資料として被告人の公務員としての地位を斟酌することと憲法第一四条
刑訴法392条2項,憲法14条
判旨
刑の量定において、犯人の年齢、経歴、社会的地位に伴う責任の重さ等の情状を考慮し、他の犯人と処遇を異にすることは、憲法14条の法の下の平等に違反しない。
問題の所在(論点)
公務員としての地位の高さや社会的責任の重さを量定上の不利益な情状として考慮し、他の受刑者と処遇を異にすることが、憲法14条の「法の下の平等」に違反するか。
規範
憲法14条の法の下の平等は、絶対的かつ無差別的な平等を求めるものではなく、事案の性質に応じた合理的な差別を許容する。刑事罰の量定(執行猶予の成否を含む)において、犯人の社会的・道義的責任の重さ、家庭的・経済的事情、および犯情といった具体的諸事情を総合的に勘案して処遇に差異を設けることは、合理的な根拠に基づく差別として許容される。
事件番号: 昭和27(あ)114 / 裁判年月日: 昭和28年6月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共同被告人間に刑の軽重の差が生じても、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の情状及び犯後の情況等を斟酌した結果であれば、憲法14条の法の下の平等に違反しない。 第1 事案の概要:共同被告人として起訴された被告人らに対し、原審は実刑を言い渡した。これに対し被告人側は、他の被告人との比較において刑の量定に差が…
重要事実
被告人は公務員として比較的高い地位にあった人物である。第一審判決に対し、被告人側は「被告人がもし若年の小吏であれば執行猶予が付されたはずであり、高い地位にあることを理由に執行猶予を認めないのは、公務員の地位による不当な差別であり憲法14条に違反する」旨を主張して上告した。
あてはめ
原判決は、単に高い地位にあるという抽象的な区分のみで執行猶予を否定したのではない。被告人の年齢、経歴、公務員としての地位に伴う社会的・道義的責任が若年の小吏に比して重いこと、さらに当時の家庭的・経済的事情や犯情といった具体的・個別的事項を総合的に吟味している。これらの事情を斟酌した結果、情状が軽くないと判断して処遇を決定したものであり、犯情等の具体的差異に基づく区別といえる。
結論
犯情や社会的責任の重さに応じて犯人の処遇を異にすることは、憲法14条に違反しない。したがって、原判決の量定判断に憲法違反はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
量定における「合理的な差別」の境界を示す判例。地位が高いこと自体を直ちに不利益に扱うのではなく、それに伴う「責任の重さ」や「犯情」という個別的要素に還元して評価する手法は、現在の量定実務(刑法66条、72条等)や憲法14条の違憲審査枠組み(合理的根拠の有無)においても妥当する。
事件番号: 昭和27(あ)6474 / 裁判年月日: 昭和29年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行を猶予しないことが、憲法14条1項に掲げられた人種、信条、性別、社会的身分又は門地による差別に当たらない限り、同条に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人に対し刑の執行を猶予しない旨の判決がなされた。これに対し弁護人は、執行猶予を付さないことが平等原則に反し憲法14条に違反する旨…
事件番号: 昭和53(あ)2084 / 裁判年月日: 昭和54年6月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が勤務先の経理課長等の職にあることを情状として考慮することは、社会的身分による不当な差別には当たらず、憲法14条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は勤務先の経理課長などの職にあったが、その職務上の立場を利用して犯罪行為に及んだ。原判決(二審)は、量刑を決定するに際し、被告人が経理課長等…