重大な事実誤認の疑いが顕著であるとして第二審の無罪判決を破棄して差し戻した事例
刑訴法411条3号
判旨
控訴審において、供賄者の証言の信用性を否定し無罪とするには、その証言が具体的かつ詳細で客観的事実と整合している場合、合理的根拠に基づき慎重に判断すべきである。第一審が認定した重要証拠の評価を合理的な理由なく覆すことは、重大な事実誤認の疑いがあるとして、刑訴法411条3号により破棄を免れない。
問題の所在(論点)
控訴審において、第一審が信用性を肯定した贈賄側の供述を否定し、事実誤認として無罪を言い渡した判断が、証拠評価の合理性を欠き、刑訴法411条3号の「重大な事実誤認」に該当するか。
規範
事実誤認の有無を判断するにあたり、供述の信用性評価は、供述内容の具体性・詳細性、客観的証拠との整合性、供述に至る経緯の合理性を総合的に考慮して行うべきである。特に、第一審が詳細かつ合理的と判断した証拠を否定するには、経験則や論理則に照らし、その疑義が合理的な裏付けを伴うものであることを要する。
重要事実
被告人(衆議院議員)は、商工委員会での質問に関し、特定の事業団体の利益を図る請託を受け、2回にわたり計200万円の賄賂を収受したとして収賄罪で起訴された。第一審は、贈賄側の詳細な証言や裏金の存在、質問原稿等の客観的証拠に基づき有罪としたが、原審(控訴審)は、贈賄側が検察官に迎合した可能性や、授受場所の不自然さ、被告人側の反証(アリバイ的証言)を重視して、無罪を言い渡した。
あてはめ
まず、贈賄側の証言は請託の経緯から資金準備、質問後の礼まで極めて詳細であり、議事録や関係者証言とも整合しており、検察官への迎合を疑う具体的根拠はない。次に、授受場所(飲食店等)も当時の状況から不合理とはいえず、被告人の質問が実際に奏功した以上、謝礼の動機も十分認められる。これに対し、被告人側の反証は、捜査段階の供述との矛盾や口裏合わせの可能性が拭えず、客観的状況とも齟齬がある。したがって、原審がこれらの反証を安易に信認し、重要証拠の信用性を否定したことは、論理則・経験則に反する。
結論
原判決には重大な事実誤認の疑いが顕著であり、これを破棄しなければ著しく正義に反する。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
事実誤認を理由とする上告審の介入基準を示す事例である。特に供述証拠の信用性判断において、第一審の判断を覆す際には「具体的・客観的な合理性」が厳格に求められることを強調しており、実務上の事実認定の在り方を拘束する射程を持つ。
事件番号: 昭和29(あ)2409 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
一 室内装飾工事の請負人が特別調達局施行の工事につき同局勤務の総理府事務官に対し、一定の職務行為の依頼でなしに、単にその工事の監督促進につき何かと世話になつた謝礼および将来好意ある取扱を受けたい趣旨で金員を供与するのは、刑法第一九八条第一九七条第一項後段にいう請託を贈賄したことにはならない。 二 右の場合これを刑法第一…