死刑事件(福岡県飯塚市の一家四人殺人事件)
判旨
死刑制度は憲法に違反せず、犯行の罪質、動機、態様、結果等の諸般の事情を総合考慮して罪責が誠に重大である場合には、死刑の科刑も許容される。また、審理に長期間を要しても、諸般の事情を総合して迅速な裁判の保障に反する異常な事態といえなければ、憲法37条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 死刑制度は憲法(31条、36条等)に違反するか。 2. 被告人の罪責に照らし、死刑の選択は相当か。 3. 起訴から判決まで長期間を要した場合、憲法37条1項の迅速な裁判の保障に違反するか。
規範
1. 死刑制度の合憲性:現行の死刑制度は憲法に違反しない。 2. 量刑の判断枠組み:犯行の罪質、動機、態様、結果、被害感情、社会的影響等の諸般の事情を総合的に考慮し、その罪責が誠に重大であって、死刑の科刑がやむを得ないといえる場合には、死刑の選択が是認される。 3. 迅速な裁判(憲法37条1項):裁判に年月を要していても、記録上の諸般の事情を総合して「迅速な裁判の保障に反する異常な事態」に立ち至ったといえない限り、同条項には違反しない。
重要事実
被告人は、内縁関係を解消せざるを得なくなったのは内縁の妻の実姉らの仕打ちによるものであると恨みを抱いた。深夜、出刃包丁を携えて実姉方に押し入り、就寝中であった実姉、その夫、母、および娘の計4名を次々と突き刺して殺害した(本件殺害はいずれも被告人の単独犯行)。第一審判決は死刑を言い渡し、原審もこれを維持した。被告人側は死刑制度の違憲性、自白の任意性欠如、および迅速な裁判を受ける権利の侵害などを主張して上告した。
あてはめ
1. 死刑制度については、確立された大法院判決の趣旨に徴し、合憲であることは明らかである。 2. 量刑について、被告人は私怨から無抵抗の就寝中の被害者4名を殺害しており、その罪質は極めて悪質である。殺害の動機に汲むべき点はなく、犯行態様も執拗かつ冷酷であり、4名死亡という結果は極めて重大である。これらを総合すれば、罪責は誠に重大であり、死刑はやむを得ない。 3. 審理期間について、起訴から原判決まで相当の年月を要している事実は認められるが、事案の性質や記録上の諸般の事情を総合すれば、迅速な裁判を侵害する「異常な事態」とは認められない。
事件番号: 平成21(あ)1903 / 裁判年月日: 平成24年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】3名の生命を奪った結果が極めて重大であり、犯行態様の残虐性、強固な殺意、動機の身勝手さを考慮すれば、被告人の更生可能性や前科がない等の有利な事情を最大限考慮しても、死刑の選択はやむを得ない。 第1 事案の概要:被告人は、義姉への恨みから周到な準備(包丁の加工、雨合羽等の用意)に基づき義姉を多数回刺…
結論
本件死刑判決は、憲法および刑訴法411条等の観点から是認でき、憲法37条1項にも違反しない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
死刑事件における量刑判断の基準(いわゆる永山基準の踏襲)と、憲法37条1項違反(裁判の遅延)の判断枠組みを示すものである。答案上では、特に重大犯罪の量刑の妥当性や、刑事手続の遅延が問題となる場面で、本判決が引用する「異常な事態」という基準を用いる。死刑制度の合憲性については、判例の結論のみを簡潔に記述する際に参照される。
事件番号: 昭和63(あ)68 / 裁判年月日: 平成5年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度は憲法13条、36条に違反せず、犯行の罪質、動機、態様、結果等の諸事情に照らして罪責が誠に重大である場合には、死刑の選択はやむを得ないものとして是認される。 第1 事案の概要:被告人は、離婚届を出して身を隠した妻の所在を隠匿したとして、妻の兄らに対して恨みを抱いた。被告人は恨みを晴らすとと…
事件番号: 昭和58(あ)140 / 裁判年月日: 平成元年6月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の選択に際しては、犯行の態様、動機、結果の重大性、遺族の被害感情等の罪質及び情状を総合的に考慮し、その罪責がまことに重大であって、死刑の科刑がやむをえないと認められる場合に許容される。 第1 事案の概要:被告人は、機会を異にして、手向かう術のない婦女2名を殺害した。各犯行は冷酷無情かつ残忍な態…
事件番号: 昭和46(あ)1870 / 裁判年月日: 昭和47年6月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人に死刑を科した一審・二審の判断につき、犯罪の情状に照らして「まことにやむをえない」と認められる場合には、量刑不当として破棄すべき事由(刑訴法411条2号)には当たらない。 第1 事案の概要:本件は被告人に対し死刑を言い渡した原判決の当否が争われた事案である。弁護人は事実誤認、単なる法令違反、…