公職選挙法138条1項,239条1項3号(平成6年法律第2号による改正前のもの)の合憲性(補足意見がある)
憲法前文,憲法14条1項,憲法15条,憲法31条,憲法41条,憲法43条,憲法44条,公選法138条1項,公選法239条1項3号
判旨
公職選挙法による戸別訪問の禁止は、選挙の公正を確保し、不当な競争や腐敗を防止するための合理的かつ必要な制限として、憲法21条に違反しない。どのような範囲で選挙運動を認めるかは立法裁量の問題であり、代替的な伝達手段が提供されている現状では、一律禁止も合憲である。
問題の所在(論点)
公職選挙法138条1項による戸別訪問の一律禁止規定が、憲法21条の保障する表現の自由(選挙運動の自由)を侵害し違憲ではないか。
規範
選挙運動の自由に対する制限の合憲性は、選挙の公正を確保し民主政治の健全な発達を期するという目的のため、制限の必要性、合理的関連性、及び制限により失われる利益と得られる利益の均衡を考慮して判断する。特に、表現行為であっても「選挙運動」としての性格を有する場合、不当な競争や経済力の差による不公平、買収等の弊害を防止する観点から、立法府の広範な裁量が認められる。代替的な意思伝達手段が確保されているかも重要な判断要素となる。
重要事実
被告人は、選挙に際し、投票を得る目的で有権者の居宅を連続して訪問した。これが公職選挙法138条1項が禁止する「戸別訪問」に該当するとして起訴された。被告人側は、戸別訪問の一律禁止は憲法21条(表現の自由)等に違反し、政治的意思決定に必要な情報伝達を過度に制約するものであるとして、その違憲性を主張して上告した。
あてはめ
戸別訪問は、買収や威迫、利益誘導といった不公正な行為を誘発する蓋然性が高い。これらの不正行為を個別に立証することは困難であり、一律禁止は「選挙の公正」を確保するためのやむを得ない措置といえる。また、現行法上、政見放送や新聞広告等の代替的な表現手段が公営制度により提供されており、戸別訪問を禁止しても候補者の意思伝達が完全に遮断されるわけではない。したがって、禁止による弊害よりも、選挙の清廉性と平等を維持する利益が上回る。このような禁止の範囲の決定は立法裁量の範囲内に属する。
結論
公職選挙法138条1項及び239条1項3号は憲法21条に違反せず、合憲である。したがって、被告人の戸別訪問に罪の成立を認めた原判断は正当である。
実務上の射程
選挙運動の自由を制約する規定の合憲性判定において、立法裁量を広く認める「猿払基準」の流れを汲む判断枠組みとして位置づけられる。答案上では、表現の自由の重要性を認めつつも、選挙という特殊な場面における公正確保の必要性、及び「買収の温床」という実態的弊害を重視するあてはめに用いる。
事件番号: 昭和55(あ)874 / 裁判年月日: 昭和56年6月15日 / 結論: 破棄差戻
公職選挙法一三八条一項の規定は、憲法二一条に違反しない。