業務上過失致死事件につき禁錮10月の実刑が破棄されて執行猶予が付された事例
刑訴法411条,刑法211条
判旨
業務上過失致死の事案において、被告人に前科がなく顕著な反省や示談の成立、職を辞した等の社会的制裁、育児中の家庭状況等の諸般の情状を総合考慮し、実刑とした原判決は量刑不当として執行猶予を付した事案である。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法411条2号にいう「刑の量定が甚だしく不当である」場合に該当するか。具体的には、業務上過失致死罪において、被害者死亡という結果の重大性に対し、被告人に有利な諸般の一般情状をどこまで考慮して執行猶予を付すべきかが問題となる。
規範
量刑の判断にあたっては、犯行の態様、結果の重大性といった犯情(責任限定要因)のみならず、被告人の経歴、反省の状況、示談の成否、社会的制裁の有無、家庭環境といった一般情状を総合的に考慮し、刑の執行を猶予すべきか否かを決定する。
重要事実
被告人が自動車運転中に安全確認を怠り、歩行者を死亡させた業務上過失致死の事案。被告人は無前科で、事故後に小学校教諭を辞職。保険金とは別に自ら相当額を出捐して遺族と示談を成立させ、被害者の夫から寛大な処分の嘆願を得ている。また、幼児を育児中という家庭環境にあったが、一審・二審ともに禁錮10月の実刑判決を下した。
あてはめ
過失の態様や死亡という結果から刑事責任は軽視できない。しかし、①無前科かつ顕著な反省があること、②教諭職を辞し社会的制裁を受けていること、③自費での示談成立と被害者遺族の嘆願があること、④幼児の母親という家庭状況にあること、を総合考慮すべきである。これらの事情を重視すれば、本件は刑の執行を猶予するのが相当であり、実刑とした原判決は甚だしく重きに失する。
結論
原判決及び第一審判決を破棄し、被告人を禁錮10月に処した上、3年間の執行猶予を付する。
実務上の射程
刑事実務における量刑不当(刑訴法411条2号)の判断枠組みを示す。特に過失犯において、結果が重大であっても、真摯な謝罪、示談、社会的制裁、家庭状況といった一般情状が極めて良好な場合には、実刑が著しく正義に反するとして上告審で破棄・自判される可能性があることを示唆している。
事件番号: 昭和57(あ)1856 / 裁判年月日: 昭和58年9月29日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】業務上過失致死罪における過失の程度の判断に際し、後方確認の困難性や、被告人が講じた一定の回避措置、被害者側の動静、示談の成立等の諸般の情状を十分に考慮せず、過失が甚だ重大であると断定した原判決は、量刑不当として破棄を免れない。 第1 事案の概要:被告人は普通貨物自動車を狭隘な道路で後退させる際、後…
事件番号: 昭和45(あ)1222 / 裁判年月日: 昭和45年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に法令適用の誤りがある場合であっても、犯行の態様その他諸般の事情を総合し、当該違法が「著しく正義に反する」と認められないときは、上告棄却を維持すべきである。 第1 事案の概要:被告人は業務上過失傷害罪(第一)および道路交通法違反の各罪(第二ないし第四)を犯した。第一審は、道交法70条の安全運転…
事件番号: 昭和54(あ)135 / 裁判年月日: 昭和54年6月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】示談の成立を量刑の情状として考慮することは、単なる情状の評価にすぎず、被告人の資力による不当な差別には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件において、示談を成立させた事実がある。原判決は、この示談の成立を量刑判断における一つの情状として採用した。これに対し、弁護側は「資力があるために示談…