法定刑超過による非常上告
刑訴法458条1号
判旨
科刑上一罪の関係にある数罪について罰金刑を選択する場合、処断刑の多額は犯情の重い罪の法定刑の多額を超えてはならず、これを超過した略式命令は法令違反であり破棄を免れない。
問題の所在(論点)
観念的競合の関係にある数罪について罰金刑を選択する場合、処断刑の多額(上限)はどのように決定されるか。また、各罪の法定刑の合計額を上限とすることができるか。
規範
1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合(観念的競合)は、刑法54条1項前段に基づき、その最も重い刑により処断する。罰金刑を選択する場合においても、刑法10条の規定に従い、最も重い罪の法定刑で定められた多額が処断刑の限界(上限)となる。
重要事実
被告人は、検査を受けておらず有効な自動車検査証の交付がない車両(無車検)かつ、自賠責保険の契約がない車両(無保険)を道路で運転した。第一審の略式命令は、道路運送車両法違反(法定刑:20万円以下の罰金等)と自動車損害賠償保障法違反(法定刑:5万円以下の罰金等)を観念的競合として適用したが、罰金30万円を言い渡した。
あてはめ
本件では、無車検車両の運行(道路運送車両法108条1号)と無保険車両の運行(自動車損害賠償保障法87条1号)が1個の行為により行われており、観念的競合にあたる。両罪のうち犯情の重い方は、法定刑の多額が20万円である道路運送車両法違反である。したがって、処断刑としての罰金額は20万円を超えることはできない。これに対し、30万円の罰金を科した原略式命令は、法令の規定する上限を逸脱している。
事件番号: 平成13(さ)3 / 裁判年月日: 平成14年4月16日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】1個の行為が複数の罪名に触れる観念的競合(刑法54条1項前段)において、罰金刑を選択する場合の処断刑の上限は、各罪の法定刑のうち最も重いものの多額に制限される。 第1 事案の概要:被告人は、無免許かつ酒気を帯びた状態で普通乗用自動車を運転した。原略式命令は、無免許運転(道路交通法118条1項1号:…
結論
原略式命令を破棄する。被告人を処断刑の範囲内である罰金10万円に処する。
実務上の射程
罪数論における「科刑上一罪」の具体的処理に関する判断である。答案上では、観念的競合の成否を論じた後、刑法54条1項に基づき「最も重い刑」の範囲内で刑を決定すべきことを示す際に活用できる。特に、複数の特別法違反が重なる事案での処断刑の算定ミスを指摘する場面で有用である。
事件番号: 平成14(さ)1 / 裁判年月日: 平成14年9月26日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】1個の行為が数個の罪名に触れる観念的競合(刑法54条1項前段)において、処断刑の多額は最も重い罪の法定刑によるべきであり、その範囲を超えて科された刑罰は法令違反として破棄される。 第1 事案の概要:被告人は、酒気を帯びた状態で運転免許証を携帯せずに自動車を運転した。原略式命令は、酒気帯び運転(法定…
事件番号: 平成16(さ)3 / 裁判年月日: 平成16年12月9日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】略式命令において法定刑の限度を超えた罰金を科したことは、法令に違反し、かつ被告人の不利益になるため、非常上告に基づき破棄されるべきである。 第1 事案の概要:1. 被告人は、普通仮運転免許を受けた者であるが、運転者席の横に有資格者を同乗させずに練習のため普通乗用自動車を運転した(道路交通法87条2…
事件番号: 平成16(さ)4 / 裁判年月日: 平成16年12月9日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】普通仮運転免許を受けた者が、法令で定められた有資格者を同乗させずに自動車を運転した場合において、法定刑(10万円以下の罰金)の上限を超えて科された罰金20万円の略式命令は、法令に違反し被告人に不利益であるため、非常上告に基づき破棄されるべきである。 第1 事案の概要:被告人は普通仮運転免許を受けた…
事件番号: 平成4(さ)2 / 裁判年月日: 平成4年10月15日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】酒気帯び運転と運転免許証不携帯の罪は、一個の行為が数個の罪名に触れる観念的競合(刑法54条1項前段)の関係にあり、重い方の法定刑の範囲内で処断すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、酒気を帯びた状態で(呼気1リットルにつき0.25mg以上)、かつ運転免許証を携帯せずに普通貨物自動車を運転した。…