処断刑超過による非常上告
刑訴法458条1号
判旨
1個の行為が複数の罪名に触れる観念的競合(刑法54条1項前段)において、罰金刑を選択する場合の処断刑の上限は、各罪の法定刑のうち最も重いものの多額に制限される。
問題の所在(論点)
観念的競合において、複数の罪の法定刑の合計額を処断刑の上限とすることができるか。または、最も重い罪の法定刑の上限に拘束されるか。
規範
1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合(観念的競合)は、刑法54条1項前段により「その最も重い刑により処断する」。この「最も重い刑」とは、各罪の法定刑を比較し、最も重い刑種を含む罪の法定刑の範囲内(刑法10条)で処すべきことを意味する。
重要事実
被告人は、無免許かつ酒気を帯びた状態で普通乗用自動車を運転した。原略式命令は、無免許運転(道路交通法118条1項1号:6月以下の懲役又は10万円以下の罰金)と、酒気帯び運転(同法119条1項7号の2:3月以下の懲役又は5万円以下の罰金)の観念的競合として、被告人を罰金12万円に処した。
あてはめ
本件では、無免許運転罪と酒気帯び運転罪が1個の行為により成立するため、刑法54条1項前段を適用すべきである。両罪を比較すると、無免許運転罪のほうが法定刑が重いため、同罪の刑で処断することになる。同罪の罰金刑の多額(上限)は10万円であるから、これを超えて罰金を科すことはできない。
事件番号: 平成14(さ)1 / 裁判年月日: 平成14年9月26日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】1個の行為が数個の罪名に触れる観念的競合(刑法54条1項前段)において、処断刑の多額は最も重い罪の法定刑によるべきであり、その範囲を超えて科された刑罰は法令違反として破棄される。 第1 事案の概要:被告人は、酒気を帯びた状態で運転免許証を携帯せずに自動車を運転した。原略式命令は、酒気帯び運転(法定…
結論
原略式命令が科した罰金12万円は、最も重い罪の法定刑の多額(10万円)を超過しており法令に違反する。したがって、原略式命令を破棄し、罰金10万円に処する。
実務上の射程
罪数論における観念的競合の処理に関する基本判例である。答案上は、数罪が1個の行為に基づくことを指摘した後、刑法54条1項前段を引用し、最も重い罪の法定刑の範囲内で刑を決定すべき旨を論じる際の根拠となる。
事件番号: 平成4(さ)2 / 裁判年月日: 平成4年10月15日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】酒気帯び運転と運転免許証不携帯の罪は、一個の行為が数個の罪名に触れる観念的競合(刑法54条1項前段)の関係にあり、重い方の法定刑の範囲内で処断すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、酒気を帯びた状態で(呼気1リットルにつき0.25mg以上)、かつ運転免許証を携帯せずに普通貨物自動車を運転した。…
事件番号: 平成16(さ)1 / 裁判年月日: 平成16年6月11日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】科刑上一罪の関係にある数罪について罰金刑を選択する場合、処断刑の多額は犯情の重い罪の法定刑の多額を超えてはならず、これを超過した略式命令は法令違反であり破棄を免れない。 第1 事案の概要:被告人は、検査を受けておらず有効な自動車検査証の交付がない車両(無車検)かつ、自賠責保険の契約がない車両(無保…
事件番号: 平成9(さ)3 / 裁判年月日: 平成9年4月14日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】略式命令において法定刑の限度額を超える罰金刑を科したことは、法令に違反し、かつ被告人の不利益になるため、非常上告に基づき破棄されるべきである。 第1 事案の概要:被告人は、酒気を帯びた状態で普通乗用自動車を運転した(酒気帯び運転)。標津簡易裁判所は、被告人を罰金7万円に処する旨の略式命令を発付し、…
事件番号: 平成16(さ)3 / 裁判年月日: 平成16年12月9日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】略式命令において法定刑の限度を超えた罰金を科したことは、法令に違反し、かつ被告人の不利益になるため、非常上告に基づき破棄されるべきである。 第1 事案の概要:1. 被告人は、普通仮運転免許を受けた者であるが、運転者席の横に有資格者を同乗させずに練習のため普通乗用自動車を運転した(道路交通法87条2…