薬物犯罪を遂行するために共犯者から交付を受けて使用した航空券の価額を追徴することが違法であるとして第1審判決中の追徴部分が破棄された事例
国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律2条3項
判旨
麻薬特例法上の「薬物犯罪収益」とは、犯罪行為自体によって取得した財産を指し、犯罪遂行の過程で費消・使用するために共犯者から交付された財産はこれに含まれない。もっとも、犯罪遂行のために交付された現金や航空券のうち、残余分や未使用分については刑法19条1項2号の没収対象となり得る。
問題の所在(論点)
薬物犯罪を遂行する過程で費消・使用されるものとして共犯者から交付を受けた航空券や現金が、麻薬特例法2条3項の「薬物犯罪収益」に該当し、同法に基づく没収・追徴の対象となるか。また、これらが「犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物」として刑法19条1項2号に基づき没収できるか。
規範
1. 麻薬特例法2条3項にいう「薬物犯罪収益」(薬物犯罪の犯罪行為により得た財産)とは、薬物犯罪の構成要件に該当する行為自体によって犯人が取得した財産をいい、犯罪遂行の過程で費消・使用されるものとして共犯者から交付を受けた財産はこれに当たらない。 2. 犯罪遂行のために交付された復路航空券は、刑法19条1項2号の「犯罪行為の用に供しようとした物」に該当し、同様に交付された現金のうち犯人が所有・管理する残額についても、同条項により没収が可能である。
重要事実
被告人は、共犯者からスペイン・アムステルダム間の往復航空券、アムステルダム・日本間の往復航空券、および現金600ドルを交付され、これらを利用して薬物犯罪を遂行した。第一審および原審は、これらの航空券および現金を「薬物犯罪収益」に該当すると判断し、未使用の復路航空券と現金を没収(麻薬特例法11条1項1号)し、既に使用された往路航空券の価額を追徴(同法13条1項)した。
事件番号: 平成13(あ)1267 / 裁判年月日: 平成15年4月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】麻薬特例法上の「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」とは、薬物犯罪の構成要件に該当する行為自体によって犯人が取得した財産を指す。共犯者から犯罪遂行のための経費として交付された航空券等は、犯罪行為の用に供するための財産であって、不法収益には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は覚せい剤密輸入の犯罪を…
あてはめ
1. 往復航空券および現金は、犯罪の準備・遂行のために共犯者から提供された原資であり、犯罪行為(構成要件該当行為)そのものによって得られた対価(報酬等)ではないため、「薬物犯罪収益」には当たらない。したがって、既に使用された往路分の価額を麻薬特例法に基づき追徴することはできない。 2. 一方で、未使用の復路航空券は犯罪行為に供する目的で準備された物であり、刑法19条1項2号の要件を満たす。また、交付された現金も犯人が所有し、犯罪遂行のために費消する予定の物であるから、全額について同条項による没収が可能である。
結論
犯罪遂行のために交付された航空券の既使用分について、麻薬特例法に基づく追徴を認めた原判決は法令違反であり破棄される。未使用の航空券および現金については刑法19条1項2号等により没収される。
実務上の射程
麻薬特例法上の没収・追徴(義務的没収等)の対象と、刑法上の没収(任意的没収)の対象を厳格に区別する射程を持つ。答案上は、提供された「軍資金」や「経費」が報酬(収益)に該当するかを検討する際のメルクマールとして活用すべきである。
事件番号: 平成13(あ)1683 / 裁判年月日: 平成15年4月11日 / 結論: 棄却
1 「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(平成11年法律第136号による改正前のもの)2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」とは,薬物犯罪の構成要件に該当する行為自体によって犯人が取得した財産をいう。 2 薬物犯罪を遂行す…
事件番号: 平成16(あ)2554 / 裁判年月日: 平成17年7月22日 / 結論: 棄却
規制薬物の譲渡を犯罪行為とする場合における「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に係る同法11条1項1号の没収及び同法13条1項前段の追徴に当たっては,規制薬物の対価として得た財産から当…
事件番号: 平成19(あ)1985 / 裁判年月日: 平成20年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】洋上で覚せい剤を密輸船から投下し、小型船舶で回収して陸揚げしようとした事案において、回収担当者が覚せい剤を実力的支配下に置かず、その可能性も乏しい段階では、輸入罪の実行の着手は認められない。 第1 事案の概要:被告人は共犯者と共謀し、外国で覚せい剤を密輸船に積み込み、本邦近海まで航行させた。その後…
事件番号: 平成4(あ)858 / 裁判年月日: 平成5年11月9日 / 結論: 棄却
平成二年法律第三三号による改正前の麻薬取締法六四条二項の「営利の目的」には、外国でジアセチルモルヒネ等の麻薬を売却して財産上の利益を得ることを目的とする場合も含まれる。