平成二年法律第三三号による改正前の麻薬取締法六四条二項の「営利の目的」には、外国でジアセチルモルヒネ等の麻薬を売却して財産上の利益を得ることを目的とする場合も含まれる。
外国でジアセチルモルヒネ等の麻薬を売却して財産上の利益を得ることを目的とする場合と麻薬取締法(平成二年法律第三三号による改正前のもの)六四条二項の「営利の目的」
麻薬取締法(平成2年法律33号による改正前のもの)64条1項,麻薬取締法(平成2年法律33号による改正前のもの)64条2項
判旨
麻薬取締法(当時)における「営利の目的」とは、薬物を売却して財産上の利益を得る目的を指し、その売却地が日本国内であるか国外であるかを問わず、国外で利益を得る目的もこれに含まれる。
問題の所在(論点)
麻薬取締法上の「営利の目的」による輸入罪が成立するためには、その営利(利益の獲得)が日本国内で行われることが必要か、あるいは国外での売却利益を目的とする場合も含まれるか。
規範
麻薬取締法(現:麻薬及び向精神薬取締法)における「営利の目的」とは、薬物を譲渡・売却することによって、自らまたは第三者が財産上の利益を得る動機・目的をいう。同法の立法趣旨(薬物の蔓延防止等)および規定の文理に照らせば、当該利益を得る場所が外国である場合であっても、国内に薬物を流入させる危険を惹起する以上、同目的の認定を妨げるものではない。
重要事実
被告人は、タイ王国からジアセチルモルヒネ(ヘロイン)の塩類を、いったん日本国内に輸入した。その目的は、日本国内で消費・売却することではなく、アメリカ合衆国へ持ち出して同地で売却し、それによって財産上の利益を得ることにあった。被告人は旧麻薬取締法64条2項(営利目的輸入罪)に問われたが、利益を得る地が外国である場合にも「営利の目的」が認められるかが争点となった。
事件番号: 平成14(あ)827 / 裁判年月日: 平成15年10月28日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】麻薬特例法上の「薬物犯罪収益」とは、犯罪行為自体によって取得した財産を指し、犯罪遂行の過程で費消・使用するために共犯者から交付された財産はこれに含まれない。もっとも、犯罪遂行のために交付された現金や航空券のうち、残余分や未使用分については刑法19条1項2号の没収対象となり得る。 第1 事案の概要:…
あてはめ
本件において、被告人はタイから日本へ薬物を輸入しているが、その最終的な意図はアメリカでの売却による利益獲得であった。しかし、麻薬等の営利目的輸入を重罰に処する趣旨は、営利という強力な動機に基づく薬物の大規模な流入・拡散を抑止することにある。そうすると、利益を得る場所がアメリカであっても、日本を中継地として薬物を輸入する行為は、国内の公衆衛生上の危険を増大させる点に変わりはない。したがって、アメリカでの売却利益を目的とする場合も「営利の目的」に含まれると解される。
結論
国外で麻薬を売却して財産上の利益を得る目的がある場合も「営利の目的」に該当する。したがって、アメリカでの利益獲得を目的として日本に輸入した被告人について、営利目的輸入罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
薬物事犯における「営利の目的」の場所的制限を否定した点に重要性がある。答案上、輸出入罪の営利目的を論じる際、犯行計画が国際的な広がりを持つケース(いわゆる「運び屋」が中継地として日本を利用する場合など)でも、国外での利益獲得を根拠に営利目的を肯定できる有力な根拠となる。
事件番号: 昭和52(あ)836 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: 棄却
一 営利の目的で、麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、麻薬取締法六四条二項、一項、一二条一項の麻薬輸入罪が成立する。 二 税関長の許可を受けないで、麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、関税法一一一条一項の無許可輸入罪が成立する。
事件番号: 昭和40(あ)1869 / 裁判年月日: 昭和41年7月13日 / 結論: 破棄差戻
麻薬取締法にいう輸入とは、わが国の統治権が現実に行使されていない地域から、わが国の統治権が行使されている地域に麻薬を搬入する行為をいう。
事件番号: 昭和49(あ)1431 / 裁判年月日: 昭和49年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいい、麻薬を身体に携帯して本邦に搬入する行為は、麻薬取締法違反と関税法違反の観念的競合となる。 第1 事案の概要:被告人は、関税定率法上の輸入禁制品であり、かつ麻薬取締法上も輸入が禁止さ…
事件番号: 昭和54(あ)2089 / 裁判年月日: 昭和55年6月11日 / 結論: 棄却
密輸入にかかる本件覚せい剤(判文参照)を没収するについては、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法二条二項に定める公告の方法は、検察庁の掲示場における掲示で足りる。