麻薬取締法にいう輸入とは、わが国の統治権が現実に行使されていない地域から、わが国の統治権が行使されている地域に麻薬を搬入する行為をいう。
麻薬取締法にいう輸入の意義。
麻薬取締法12条1項,麻薬取締法13条,麻薬取締法64条,麻薬取締法65条
判旨
麻薬取締法上の「輸入」とは、同法による行政的取締権が及ばない地域から、その権利が行使されている地域へ麻薬を搬入する行為を指し、わが国の領土であっても施政権が及ばない沖縄から本土への搬入はこれに該当する。
問題の所在(論点)
わが国の領土でありながら他国の施政権下にある地域(沖縄)から、わが国の統治権が及ぶ地域(本土)へ麻薬を搬入する行為が、麻薬取締法にいう「輸入」に該当するか。
規範
「輸入」の意義について法律上の規定がない場合、その意義は法律の趣旨目的に照らし合理的に判断すべきである。麻薬取締法は、麻薬の流通等を規制して社会秩序の維持と国民の保健衛生上の危害防止を図るものであるから、同法による行政的取締りができない地域から、その取締りが可能な地域へ搬入されることを「輸入」として規制する必要がある。一般に輸入が「外国」からの搬入を指すのは、通常は領土権と統治権の行使地域が一致しているためであり、両者が分離している特殊な場合には、現実の統治権(施政権)の有無を基準とすべきである。
重要事実
被告人は他の2名と共謀し、当時、サンフランシスコ平和条約3条に基づきアメリカ合衆国が行政・立法・司法上の権力を完全に行使していた沖縄から、わが国の統治権が行使されている鹿児島へ麻薬を搬入した。原審は、関税法等と異なり麻薬取締法には沖縄を外国とみなす規定がないことを理由に、本件行為は「輸入」に当たらないとして無罪を言い渡したため、検察官が上告した。
事件番号: 平成4(あ)858 / 裁判年月日: 平成5年11月9日 / 結論: 棄却
平成二年法律第三三号による改正前の麻薬取締法六四条二項の「営利の目的」には、外国でジアセチルモルヒネ等の麻薬を売却して財産上の利益を得ることを目的とする場合も含まれる。
あてはめ
沖縄はわが国の領土ではあるが、平和条約によりアメリカ合衆国が施政権を現実に行使しており、わが国の統治権(行政的取締権)は及んでいなかった。麻薬取締法の目的は、同法の施行区域内における保健衛生上の危害を防止することにある。そうであれば、同法による取締りが及ばない沖縄から、取締りが及ぶ鹿児島へ麻薬を流入させる行為は、実質的に「外国」からの搬入と同様の危険を伴うものである。したがって、法律上の明文の規定がなくとも、性質上「輸入」として規制の対象に含めるのが合理的である。
結論
沖縄から鹿児島に麻薬を搬入する行為は、麻薬取締法にいう「輸入」に該当する。これと反対の解釈で犯罪の成立を否定した原判決には法令解釈の誤りがあるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
法の趣旨・目的に遡って「輸入」概念を解釈した手法が重要である。本件は返還前の沖縄という特殊事情に基づくが、形式的な領土概念ではなく、実質的な「行政的取締権の及ぶ範囲」を基準に輸入・輸出を判断する際の指針となる。
事件番号: 昭和49(あ)1431 / 裁判年月日: 昭和49年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいい、麻薬を身体に携帯して本邦に搬入する行為は、麻薬取締法違反と関税法違反の観念的競合となる。 第1 事案の概要:被告人は、関税定率法上の輸入禁制品であり、かつ麻薬取締法上も輸入が禁止さ…
事件番号: 昭和52(あ)836 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: 棄却
一 営利の目的で、麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、麻薬取締法六四条二項、一項、一二条一項の麻薬輸入罪が成立する。 二 税関長の許可を受けないで、麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、関税法一一一条一項の無許可輸入罪が成立する。
事件番号: 平成19(あ)1985 / 裁判年月日: 平成20年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】洋上で覚せい剤を密輸船から投下し、小型船舶で回収して陸揚げしようとした事案において、回収担当者が覚せい剤を実力的支配下に置かず、その可能性も乏しい段階では、輸入罪の実行の着手は認められない。 第1 事案の概要:被告人は共犯者と共謀し、外国で覚せい剤を密輸船に積み込み、本邦近海まで航行させた。その後…
事件番号: 平成9(あ)1207 / 裁判年月日: 平成11年9月28日 / 結論: 棄却
大麻の密輸入を企てた被告人が、大麻を預託手荷物と携帯手荷物の中にそれぞれ隠匿して、航空機で新東京国際空港に到着した後、入国審査官により本邦からの退去を命じられ、即日本邦を出発する航空機に搭乗することとしたが、それまでに、預託手荷物は空港作業員により旅具検査場内に搬入させ、携帯手荷物は自ら携帯して上陸審査場に赴いて上陸審…