申立人が勾留され起訴された事実と異なる事実を前提として刑訴法89条4号所定の事由存否と裁量保釈の当否を判断した違法があるとして保釈請求却下の裁判に対する準抗告棄却決定が取り消された事例
刑訴法89条4号,刑訴法90条,刑訴法411条1号,刑訴法426条2項,刑訴法434条
判旨
保釈の要否を判断するにあたり、被告人が起訴された公訴事実とは異なる事実を前提として、刑訴法89条4号所定の除外事由の存否や裁量保釈の当否を判断した裁判には、重大な違法がある。
問題の所在(論点)
裁判所が保釈の当否を判断する際、勾留の基礎となっている公訴事実とは異なる事実を前提として判断することは許されるか。
規範
保釈の判断にあたっては、被告人が現に勾留・起訴されている具体的な公訴事実(犯罪事実)を前提として、権利保釈の除外事由(刑訴法89条各号)の有無や裁量保釈(同法90条)の適当性を判断しなければならない。
重要事実
被告人は、密漁された「けがに」を情を知りながら買い受けて所持したという事実(贓物罪的事実)について勾留・起訴されていた。しかし、原決定(準抗告棄却決定)は、被告人が共同被告人らと共謀して「けがに」を密漁(採捕)したという、起訴事実とは異なる組織的な密漁事実を前提として、刑訴法89条4号(証拠隠滅の疑い)の該当性および裁量保釈の不適当を判断した。
あてはめ
本件において被告人が起訴された事実は、密漁された「けがに」の買い受け・所持であり、自ら密漁(採捕)を行ったという事実は含まれていない。しかるに原決定は、被告人が直接採捕に携わったという誤った前提に基づき、その罪質が「組織的な密漁」であるとして証拠隠滅の恐れや裁量の余地を判断している。これは、適正な手続により審理・確定されるべき公訴事実を逸脱した判断であるといえる。
事件番号: 昭和46(し)22 / 裁判年月日: 昭和46年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留の必要性判断において罪証隠滅のおそれがあるとする原決定の認定は適法であり、実質的な事実誤認や法令違反の主張は特別抗告の理由に当たらない。 第1 事案の概要:被告人が勾留決定に対し抗告したところ、原審(高等裁判所)は「罪証隠滅のおそれ」があるとしてこれを支持した。これに対し被告人が、憲法31条(…
結論
被告人が起訴された事実とは異なる事実を前提として保釈の当否を判断した原決定には重大な違法があり、取り消さなければ著しく正義に反する。原決定を取り消し、差戻しを命じる。
実務上の射程
保釈判断の前提となる「事実」の特定に関する射程を有する。実務上、保釈の必要性や相当性を論じる際、検察官の主張や裁判所の予断によって、起訴状記載の事実を超えた「背景事実」や「余罪」を実質的な処罰対象として過大評価し、保釈を制限することを否定する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和44(し)64 / 裁判年月日: 昭和44年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈請求却下の裁判およびこれを維持した決定に対し、憲法13条違反等の主張があったとしても、それが裁判の結果に影響を及ぼさない場合や、実質的に単なる訴訟法違反の主張にすぎない場合は、特別抗告の理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人側が保釈を請求したが却下され、その却下裁判を維持した原決定に対し…
事件番号: 昭和52(し)27 / 裁判年月日: 昭和52年4月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈却下事由である「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の認定において、被告人の否認という態度そのものではなく、供述内容の食い違い等の客観的状況から関係者への働きかけの蓋然性を推認することは、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が公訴事実を否認している状況において、下級審(原…
事件番号: 昭和23(つ)33 / 裁判年月日: 昭和24年2月9日 / 結論: 棄却
原審は、なお勾留繼続の必要ありとして保釈申請却下の決定をしたのである。これに對し論旨は本件被告人に對しては逃亡又は罪證湮滅の虞は全然ないのだから、これに對し保釈を許さないのは不當だというのである。これは結局右の虞ありや否に關する原審の事實認定を批難するに歸着するから當裁判所に對する特別抗告の理由としては適法でない。
事件番号: 平成17(し)110 / 裁判年月日: 平成17年3月9日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】被告人に前科がなく、受験が目前に迫る等の身上事情がある場合、共犯者の供述や本人の自白等の証拠関係に照らしても、保釈却下は裁量権の逸脱であり、職権による保釈(刑訴法90条)を認めるべきである。 第1 事案の概要:被告人は大麻約1.153グラムの共謀所持の罪で起訴された。共犯者Aが被告人との共謀を供述…