金銭債権に対する強制執行に基づく配当手続において、債務者の代理人たる弁護士が債権者中の一人名義の同弁護士に対する偽造の代理委任状を提出した場合に、担当裁判官がその委任状が偽造であるかどうかを当該債権者本人について調査しなかつたとしても、判示事実関係のもとにおいては、右裁判官に過失があるということはできない。
弁護士の提出した代理委任状が偽造であるかどうかについて調査しなかつたことに裁判官の過失がないとされた事例
国家賠償法1条,民訴法80条,民訴法629条,民訴法630条,弁護士法1条
判旨
裁判所が訴訟代理権の有無を調査するにあたり、弁護士が委任状を提出している場合には、その真偽を疑わせる特段の事情がない限り、真正な代理権が存在するものとして取り扱えば足り、直ちに本人に確認する義務はない。
問題の所在(論点)
国家賠償法1条1項の「過失」の有無に関連し、弁護士が提出した委任状が偽造であることを見抜けなかった裁判官に、代理権の存否を本人に直接審問等して確認すべき職権調査上の注意義務違反が認められるか。
規範
訴訟代理権の有無は職権調査事項であるが、弁護士が自己の代理権を主張して委任状を提出している場合、裁判所はその真偽を疑わせるような「特段の事情」がない限り、本人に対し一々確認することなく真正な代理権が存在するものとして取り扱えば足りる。また、弁護士が債権者・債務者双方を代理する場合であっても、本人の同意がある等の事情があれば直ちに無効とはならない。
重要事実
債権者である被上告人は、別個の代理人弁護士を選任して配当手続を進めていたが、債務者の代表者が被上告人に無断で委任状を偽造し、債務者の代理人である弁護士高野を被上告人の代理人としても選任した。高野弁護士は双方代理人として出頭し、特定の債権者に全額配当する旨の協議書を提出。裁判官はこれに基づき配当を実施したが、被上告人は分配を受けられず損害を被ったため、裁判官の過失を理由に国家賠償を請求した。
あてはめ
本件では、高野弁護士が委任状および配当協議書を提出しており、その体裁や、協議書に弁護士らが信義に基づき分配額を決定する旨の記載があったこと等の事情が認められる。債権者・債務者の双方を同一弁護士が代理することは稀ではあるが、弁護士の社会的地位や職責に鑑みれば、既に別の代理人がいる状況で追加の代理人が出現したこと等を含めても、直ちに委任状が偽造であると疑うべき「特段の事情」があったとは認めがたい。したがって、本人への直接確認を怠ったことが注意義務違反に当たるとはいえない。
結論
裁判官に職権調査義務上の過失があったとは認められず、国は国家賠償責任を負わない。
実務上の射程
裁判所の職権調査義務の限界を示した判例であり、特に「弁護士」による書面提出がある場合の信頼の程度を明らかにしている。答案上は、訴訟要件(代理権)の調査義務や、裁判官の職務上の過失の有無を論ずる際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)611 / 裁判年月日: 昭和44年3月4日 / 結論: 棄却
甲の乙に対する手形金債権を担保する目的で、乙が丙に対する請負代金債権の代理受領を甲に委任し、丙が甲に対し右代理受領を承認しながら、請負代金を乙に支払つたため、甲が手形金債権の満足を受けられなくなつた場合において、丙が右承認の際担保の事実を知つていたなど原判示の事情(原判決理由参照)があるときは、丙は、甲に対し過失による…