振出人甲、受取人兼裏書人乙、被裏書人丙という約束手形について甲、乙および丙間において書替の合意がされ、甲において乙を受取人とする新手形を振り出し、従前の手形は丙から甲に返還されたが、右新手形が乙の手許で破棄されたため、丙において手形上の権利を取得できなかつた場合には、従前の手形がすでに甲によつて破棄されて滅失していたときであつても、丙は甲に対し従前の手形に基づく手形金の請求をすることができ、甲は除権判決のないことを理由に右手形金請求を拒むことはできないと解すべきである。
手形を所持しないでされた手形金請求が認容された事例
手形法38条,手形法39条
判旨
手形債務者が手形を占有・破棄した場合には、債権者が手形を所持していなくても、除権判決を経ずに手形上の権利を行使できる。この場合、債権者は呈示を要せず、支払請求時からの遅滞責任を追及できる。
問題の所在(論点)
手形を喪失し、かつ除権判決を得ていない債権者は、手形が債務者の占有下で破棄された場合に、当該手形上の権利を行使できるか。また、その際の呈示義務および履行遅滞の発生時期はどうなるか。
規範
手形の権利行使に所持を要する趣旨は、債権者の確知および二重払いの危険避止にある。したがって、手形が債務者の占有に帰している場合には、債務者保護の必要がないため、債権者の所持は権利行使の要件とならず、債務者は引換給付の抗弁や除権判決の欠如を理由とする拒絶はできない。この場合、支払のための呈示も不要であり、単純な請求によって履行遅滞に陥る。
重要事実
振出人(上告人)と所持人(被上告人)の間で手形の書替合意がなされ、所持人は旧手形を振出人に手渡した。しかし、書替後の新手形は裏書前に破棄され、旧手形も振出人自身によって「不要になった」として破棄された。所持人は旧手形を所持せず、かつ除権判決も得ていない状態で、旧手形に基づく手形金の支払を請求した。
あてはめ
本件では、旧手形は書替手続の過程で債務者である振出人の手に渡り、振出人自らがこれを破棄した。振出人が手形を占有・破棄した以上、二重払いの危険はなく、債権者を確知する必要も欠いている。したがって、除権判決を必要とする実質的理由がなく、振出人が証券の不所持を理由に支払を拒むことは許されない。また、証券が債務者の手元にある以上、呈示は不要であり、昭和32年12月18日の支払請求の翌日から遅延損害金が発生するといえる。
結論
債権者は除権判決を得ることなく手形上の権利を行使できる。振出人は、請求の翌日から完済まで年6分の割合による遅延損害金を付した手形金を支払う義務を負う。
実務上の射程
手形滅失時の原則(除権判決必要性)に対する重要な例外を示す。答案上は、債務者が自ら手形を回収・隠匿・破棄した場合に、受戻証券性の趣旨に遡って所持不要論を展開する際の根拠となる。また、呈示不要による履行遅滞の起算点についても言及が可能である。
事件番号: 昭和44(オ)118 / 裁判年月日: 昭和47年4月6日 / 結論: 破棄差戻
一、約束手形に振出人として署名したが、これを流通におく前に盗取されまたは紛失した者の得た除権判決は、右振出署名者において、除権判決後その手形を取得した者に対し支払を拒絶しうる効力を有するにとどまり、除権判決前に手形を悪意または重大な過失なく取得し、振出署名者に対して振出人としての責任を追求しえた者の有する実質的権利まで…