手形権利者が手形を所持しないでなした裁判上の請求によつても、時効中断の効力がある。
手形を所持しない手形権利者の裁判上の請求と時効中断の有無。
民法147条1号,手形法38条1項,手形法39条1項
判旨
手形権利者が手形を喪失した場合でも、その所持がないまま手形債務者に対し裁判上の請求をなせば、手形債権の消滅時効は中断する。手形の引換証券性は履行の問題であり、権利の上に眠っていない事実により効力を認めるべき時効中断の判断には影響しない。
問題の所在(論点)
手形を喪失した手形権利者が、手形を所持せず、かつ除権判決も得ていない状態で裁判上の請求をした場合、手形債権の消滅時効は中断するか。
規範
手形権利者は自己の意思に基づかずに手形の所持を失っても権利を喪失しない。時効中断制度は権利者が権利の上に眠っていない事実にその効果を認めるものであるから、手形を所持しないままなされた裁判上の請求であっても時効中断の効力を有する。手形法39条が定める手形の引換証券性は、履行請求の可否を左右するにすぎず、時効中断の成否には推し及ぼされない。
重要事実
手形権利者である上告人は、被告Bより裏書譲渡を受けた約束手形につき、支払場所に呈示したが支払を拒絶された。その後、当該手形を保管していた検察庁の火災により手形を焼失した。上告人は手形を所持しないまま、満期から1年が経過する前に被告Bに対し手形金支払を求める本訴を提起した。なお、上告人は口頭弁論終結前に当該手形につき除権判決を得ていた。
あてはめ
上告人は本件手形を焼失により喪失しているが、これによって手形上の権利を失うものではない。本件における本訴提起は、権利者がその権利を行使する意思を明確に表示したものであり、権利の上に眠っていない事実に合致する。手形の呈示ができないことは時効中断の効力を否定する理由にはならず、また引換証券性を理由に訴え提起時の時効中断効を否定することも誤りである。したがって、満期から1年を経過する前になされた本訴提起により、時効は中断したと解される。
結論
手形を所持しないままなされた裁判上の請求であっても、時効中断の効力を生じる。したがって、本件手形債権は時効消滅していない。
実務上の射程
手形喪失時の権利救済の局面で重要となる。訴訟提起後に除権判決を得れば履行請求が認められる(引換証券性の充足)が、その前提となる時効中断については、訴え提起時点で手形を所持していれば足りるのではなく、所持していなくても「請求」があれば認められることを明示した。実務上は、時効完成が迫っている場合に除権判決を待たずに提訴すべき指針となる。
事件番号: 昭和38(オ)1301 / 裁判年月日: 昭和41年11月2日 / 結論: 棄却
白地手形のまま手形金請求の訴を提起した場合でも、右訴提起の時に時効の中断があつたものと解すべきである。