所得税の確定申告書を提出すべき義務ある者が申告書を提出しなかつた場合においては、税務署長が、無申告による決定をなすべきであるのに、誤つて過少申告による更正処分をしても、右更生処分の取消を求める訴の利益は認められない。
所得税の確定申告をしない場合において誤つてなされた過少申告による更生処分の取消を求める訴の利益。
所得税法(昭和37年法律67号による改正前のもの)44条1項,所得税法(昭和37年法律67号による改正前のもの)44条4項,行政事件訴訟法9条
判旨
本来は無申告加算税を課されるべき納税者に対し、誤ってそれより低額な過少申告加算税を課す更正処分がなされた場合、納税者に不利益はなく、当該処分の取消しを求める法律上の利益は認められない。
問題の所在(論点)
本来は無申告としてより重い加算税を課されるべき者が、誤って過少申告としてより軽い更正処分を受けた場合、当該処分の取消しを求める「法律上の利益」を有するか。
規範
取消訴訟を提起するには、処分によって自己の権利や法的利益を侵害され、または侵害される恐れがあること(法律上の利益)を要する。特に、本来受けるべき不利益処分よりも軽微な処分がなされたに過ぎない場合、実質的な不利益が存在しないため、処分の取消しを求める訴えの利益は否定される。
重要事実
上告人は妻の代理人として所得税の確定申告を行ったが、税務署長はこれを上告人自身の申告と誤認した。さらに、上告人に給与所得等の申告漏れがあるとして、上告人に対し過少申告加算税を徴収する更正処分を行った。しかし、実際には当該所得は上告人に帰属するものであり、上告人自身は確定申告を行っていなかった。そのため、本来は無申告加算税が課されるべき事案であった。
あてはめ
過少申告加算税と無申告加算税は、いずれも申告義務違背に対する制裁であり本質において差異はない。一般に無申告加算税は過少申告加算税よりも多額である。本件において、上告人は実際には確定申告を行っておらず無申告の状態にあった。そうであれば、誤って過少申告を前提とする更正処分がなされたとしても、本来課されるべき負担よりも軽微なものにとどまっている。したがって、当該更正処分によって上告人の権利が不当に侵害される恐れはないと評価される。
結論
上告人は本件更正処分の取消しを求める法律上の利益を有しないため、請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益」の判断において、処分の違法性以前に、原告が受けている具体的・実質的な不利益の有無を検討する際の指標となる。納税者に有利な誤りを含む処分は、その違法性を問わず訴えの利益を欠くとする実務上の準則を示すものである。
事件番号: 昭和30(オ)735 / 裁判年月日: 昭和33年6月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】推計課税において、特段の事情がない限り仕入品の利益率から売上品の利益率を推定することは合理的であり、課税庁が更正時に使用しなかった資料であっても、それが所得を適正に推計し得るものである限り、更正の正当性を基礎付ける証拠として用いることができる。 第1 事案の概要:上告人は、昭和26年度の所得税につ…
事件番号: 昭和56(行ツ)139 / 裁判年月日: 昭和58年10月27日 / 結論: 棄却
国税通則法六八条一項による重加算税の賦課決定に対する審査請求において、同項所定の加重事由は認められないが、同法六五条所定の過少申告加算税の賦課要件の存在が認められる場合には、国税不服審判所長は、右賦課決定のうち過少申告加算税額に相当する額を超える部分のみを取り消すことができる。
事件番号: 昭和35(オ)49 / 裁判年月日: 昭和35年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他名義の預金の存在や、所得率が著しく低いこと等は、所得税法上の青色申告承認の取消事由に該当し、当該取消処分は適法である。 第1 事案の概要:上告人は青色申告の承認を受けていたが、税務署長(被上告人)は、DおよびEという他人の名義を用いた別途預金が存在していること、および所得率が実態に比して著しく過…
事件番号: 昭和37(オ)790 / 裁判年月日: 昭和39年2月18日 / 結論: 破棄自判
無申告加算税を課徴すべき場合に、過少申告加算税を課しても、その課税処分を無効とはいえない。