一 消滅時効完成後に債務の承認をした場合において、そのことだけから、右承認はその時効が完成したことを知つてしたものであると推定することは許されないと解すべきである。 二 債務者が、消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知らなかつたときでも、その後その時効の援用をすることは許されないと解すべきである。
一 消滅時効完成後に債務の承認をした場合において右承認はその時効の完成を知つてしたものと推定することの可否 二 消滅時効完成後における債務の承認と当該時効援用の許否
民法146条
判旨
消滅時効完成後に債務者が債務の承認をした場合、時効完成の事実を知らなかったとしても、信義則上、爾後その時効を援用することは許されない。
問題の所在(論点)
消滅時効完成後に債務者が時効完成の事実を知らずに債務を承認した場合、時効利益の放棄(民法146条)が成立するか、あるいは信義則上、時効の援用が制限されるか。
規範
債務者が時効完成後に債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方(債権者)においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると信頼するのが通常である。したがって、時効完成の事実を知っていたか否かにかかわらず、その後の時効援用を認めることは信義則(民法1条2項)に反し、許されない。
重要事実
上告人(債務者)は商人であり、本件債務について消滅時効が完成した後に、債権者に対して当該債務を承認した。原審は、債務者が商人であれば時効完成の事実を知って承認したものと推定できるとして時効利益の放棄を認めた。これに対し上告人は、時効完成の事実を知らずに承認したのであるから時効を援用できると主張して上告した。
あてはめ
本件において上告人は、時効完成後に債務を承認している。債務者が時効完成の事実を知っていることはむしろ異例であり、たとえ商人であっても承認の事実から直ちに時効完成の認識を推定することはできない。したがって、厳密な意味での「時効利益の放棄」には当たらない。しかし、債務の承認は時効による債務消滅の主張と矛盾する行動であり、債権者に援用放棄への信頼を生じさせる。このような信頼を保護する必要がある以上、信義則に基づき、もはや時効の援用は許されないと評価される。
結論
時効完成を知らずに承認した場合であっても、その後の時効援用は信義則上許されない。したがって、上告人の時効援用を排斥した原判決の結論は正当である。
実務上の射程
民法146条の「時効利益の放棄」は時効完成の知得を要件とするが、本判例は知得がない場合でも「信義則」による援用権喪失という別ルートの法理を確立した。答案では、146条の放棄が認められない場合の予備的主張として構成するのが実務的である。
事件番号: 昭和37(オ)1191 / 裁判年月日: 昭和40年12月21日 / 結論: 棄却
確定判決が第三者を害する意図のもとに当事者の通謀により裁判所を欺罔して取得されたものであるとしても、右事実の存在を理由に、請求異議の訴をもつて前記確定判決の執行力の排除を求めることは許されない。