債務者が、消滅時効の完成後に、債権者に対し当該債務を承認した場合においても、以後ふたたび時効は進行し、債務者は、再度完成した消滅時効を援用することができる。
消滅時効完成後の債務承認と再度完成した時効の援用
民法146条
判旨
債務者が時効完成後に債務を承認した場合、信義則上、それ以前に経過した時効を援用することはできないが、その承認後から新たに時効期間が進行することを妨げない。
問題の所在(論点)
消滅時効完成後に債務を承認し、信義則上時効の援用が許されないとされた後、さらに時効期間が経過した場合に、債務者は再び時効を援用できるか。
規範
消滅時効完成後の債務承認による時効援用権の喪失は、あくまで「既に経過した時効期間」についての援用を封じるものに留まる。承認以後は、民法157条等の趣旨に照らし、再び新たな時効期間が進行する。時効完成後の承認は新たな債務負担行為に準ずる実質を有するため、承認によって債務者が無期限に時効を援用できなくなるような、債務者に著しく不利益な解釈をすべきではない。
重要事実
上告人(債務者)は、被上告人(債権者)から営業資金10万円を借り受けたが、弁済期(昭和28年11月5日)から5年の商事消滅時効期間が経過した後の昭和37年5月29日、支払猶予を求めて債務を承認した。その後、さらに5年4か月余りが経過した昭和42年10月9日に、被上告人が本件訴えを提起したため、上告人は改めて消滅時効を援用した。
あてはめ
上告人が昭和37年に行った支払猶予の申し入れは債務の承認にあたり、それ以前の時効完成を主張することは信義則上許されない。しかし、この承認時から新たに時効期間が進行するため、商事時効の5年が経過した昭和42年5月頃には再び時効が完成する。本件訴え提起は昭和42年10月であり、承認から5年が経過している以上、その間に更新(中断)等の特段の事情がない限り、上告人は再び完成した時効を援用できるといえる。
結論
時効完成後の承認によっても、その後に改めて時効期間が経過すれば、債務者は再び消滅時効を援用しうる。したがって、再び時効が完成したか否かを審理せずに時効援用を排斥した原判決は違法であり、破棄を免れない。
実務上の射程
時効完成後の承認に関する大法廷判決(最判昭41.4.20)の射程を画定する重要判例。答案では、時効完成後の承認による援用権喪失(信義則)を述べた後、さらに長期間が経過している事案において、再度の時効進行と援用の可否を検討する際に用いる。時効の中断(更新)規定との均衡を論証の柱とする。
事件番号: 昭和41(オ)30 / 裁判年月日: 昭和42年6月23日 / 結論: 破棄差戻
債務者が抗弁として金銭債権が消滅時効の完成によつて消滅した旨を主張し、右抗弁が理由のある場合には、裁判所は、債権者において再抗弁として当該債務の弁済期の猶予があつた旨を主張しないかぎり、右猶予によつて消滅時効が完成しないものと判断することはできない。