一 訴訟上相殺の主張をするにあたり、受働債権につき時効中断事由たる債務の承認がなされたものと認められる場合、その後相殺の主張が撤回されても承認による時効中断の効力は失われない。 二 訴訟上相殺の主張をする訴訟代理人は、特別の授権がなくても、受働債権につき債務の承認をする権限があるものと解すべきである。
一 訴訟上の相殺の主張の撤回と受働債権につきなされた債務承認の効力 二 相殺の主張をする訴訟代理人と受働債権につき債務の承認をする権限の有無
民法147条3号,民訴法199条2項,民訴法81条
判旨
訴訟上の相殺の抗弁が提出された場合、受働債権の存在を認めることは消滅時効の中断事由たる「承認」に該当し、後に相殺の主張が撤回されてもその承認の効力は失われない。
問題の所在(論点)
訴訟上の相殺の主張が撤回された場合であっても、当該主張に含まれる受働債権の「承認」による時効中断の効力は維持されるか。また、訴訟代理人による当該承認に特別の授権が必要か。
規範
訴訟上の相殺の主張において受働債権の存在を認めることは、時効中断事由としての「承認」(民法147条3号、現152条1項)にあたる。また、一度生じた承認の効力は、その後の相殺の主張の撤回によって遡及的に消滅するものではない。さらに、訴訟代理人が相殺の主張をするにあたり、その前提として受働債権を承認することについて特別の授権は不要である。
重要事実
上告人(原告)と被上告人(国)との間の訴訟において、被上告人側から訴訟上の相殺の主張がなされた。その際、受働債権(上告人が主張する債権)の存在を前提とした主張が行われたが、後にこの相殺の主張は撤回された。上告人は、相殺の主張に伴う承認によって受働債権の消滅時効が中断したと主張したが、被上告人は撤回により中断の効力も消滅したと争った。
あてはめ
訴訟上の相殺の主張は、自己の債務の存在を前提として対当額で消滅させる意思表示であるから、相手方の債権(受働債権)の存在を認める「承認」を包含する。本件において訴訟代理人が相殺の主張を行ったことは、有効な承認にあたる。承認は観念の通知として、相手方に到達した時点で時効中断の効力を生じる。撤回は将来に向かって訴訟上の攻撃防御方法を撤回する行為にすぎず、既に実体法上の効果として発生した時効中断(承認)の効力を覆すものではない。また、相殺の主張は通常の訴訟追行の範囲内であり、特別の授権(民訴法55条2項各号)は不要である。
結論
訴訟上の相殺の主張が撤回されても、既に生じた時効中断(承認)の効力は失われない。訴訟代理人の相殺主張に伴う承認に特別の授権は不要である。
実務上の射程
消滅時効の抗弁に対する再反論として「承認による中断(更新)」を主張する際の有力な根拠となる。予備的相殺の抗弁であっても、債務の存在を前提とする限り承認の効果が生じうる点に注意が必要である。答案上は、時効の完成猶予・更新の局面で、訴訟行為が実体法上の意思表示・通知を兼ねる性質(併存説的構成)を説明する際に活用する。
事件番号: 昭和33(オ)732 / 裁判年月日: 昭和36年7月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の撤回は、相手方の同意がない場合であっても、相手方がこれに対して異議を述べた形跡が認められないときは、有効に成立する。 第1 事案の概要:土地売買契約の成立をめぐる紛争において、第一審の被告(被上告人)が答弁書や準備書面を通じて契約の成立を否認する主張を行った。これに対し、原告(上告人…