消滅時効にかかつた他人の債権を譲り受け、これを自働債権として相殺することは許されない。
時効にかかつた譲受債権を自働債権として相殺することの許否。
民法506条,民法508条
判旨
消滅時効が完成した後に他人の債権を譲り受け、これを自働債権として相殺することは、民法508条の趣旨に照らし許されない。
問題の所在(論点)
既に消滅時効が完成した他人の債権を譲り受けた者が、これを自働債権として相殺することができるか。民法508条の適用の成否が問題となる。
規範
民法508条は、時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺適状にあった場合には、例外的に相殺を認める規定である。しかし、既に消滅時効が完成した他人の債権を譲り受け、これを自働債権として相殺することは、同条の趣旨(相殺に対する期待の保護)に照らし、許されない。
重要事実
上告人は、被上告人に対する手形債権を譲り受けたが、当該手形取得の時点において、既に手形債権の消滅時効が完成していた。上告人は、この消滅時効にかかった手形債権を自働債権として相殺の意思表示をしたが、被上告人は消滅時効を援用した。
あてはめ
本件において、上告人が取得した手形債権は、取得当時すでに時効が完成していた。民法508条が消滅時効後の相殺を認めるのは、時効完成前に相殺適状にあり、相殺による決済を期待した当事者を保護するためである。本件のように、時効完成後に債権を取得した者は、自ら相殺適状にあった期間が存在せず、そのような保護すべき期待は生じない。したがって、上告人による相殺の意思表示は、同条の法意に照らし無効と解される。
結論
既に消滅時効にかかった他人の債権を譲り受けて自働債権とする相殺は認められず、相殺の意思表示は効力を生じない。
実務上の射程
消滅時効と相殺の関係における重要判例である。民法508条の「その消滅以前に相殺適状にあった」という要件の主体的範囲を画するものであり、債権譲受人が自ら相殺適状を経験していない場合には、同条の適用が否定されるというロジックで答案を構成する際に用いる。
事件番号: 昭和38(オ)1066 / 裁判年月日: 昭和40年4月2日 / 結論: 棄却
一 債務名義たる判決の基礎となる口頭弁論の終結前に相殺適状にあつたとしても、右弁論終結後になされた相殺の意思表示により債務が消滅した場合には、右債務の消滅は、請求異議の原因となりうる。 二 甲の代理人として乙に対する調停の申立をなし、その調停によつて乙の甲に対する贈与契約を成立させた弁護士が、後に乙の訴訟代理人となつて…