一 債務名義たる判決の基礎となる口頭弁論の終結前に相殺適状にあつたとしても、右弁論終結後になされた相殺の意思表示により債務が消滅した場合には、右債務の消滅は、請求異議の原因となりうる。 二 甲の代理人として乙に対する調停の申立をなし、その調停によつて乙の甲に対する贈与契約を成立させた弁護士が、後に乙の訴訟代理人となつて、右贈与契約上の債権を甲から譲り受けた丙を被告として、右債権が乙の甲に対する反対債務をもつてする相殺によつて消滅したと主張する訴を提起しても、当該訴訟事件の相手方から協議を受け、または依頼を受諾したことがあるとはいえないから、弁護士法第二五条第一号または第二号に違反しない。 三 弁護士法第二五条第三号の「受任している事件」とは、すでに終了した事件を含まない。 四 債務者が債権譲渡の通知を受ける前に譲渡人に対し相殺適状にある反対債権を有している場合には、右譲渡通知を受けた後においても、債務者は債権譲受人に対し相殺をもつて対抗することができる。
一 口頭弁論終結前に相殺適状にある場合において右弁論終結後の相殺による債務消滅は請求異議の原因になるか。 二 弁護士法第二五条第一号または第二号に違反しないとされた事例。 三 弁護士法第二五条第三号の「受任している事件」の意義。 四 債権譲渡の通知前に相殺適状にある場合と債権譲受人に対する相殺の適否。
民訴法545条,弁護士法25条1号,弁護士法25条2号,弁護士法25条3号,民法468条,民法505条
判旨
債務者は、債権譲渡の通知を受ける前に譲渡人に対して反対債権を有し、かつそれが相殺適状にある限り、通知後であっても譲受人に対し相殺をもって対抗できる。また、不動産贈与において「履行の終わった」(民法550条但書)とは、登記がなくとも引渡しがあれば足りる。
問題の所在(論点)
1. 債権譲渡の通知前に取得した反対債権による相殺を、通知後に譲受人に対して主張できるか。 2. 不動産の贈与において、登記未了であっても引渡しがあれば民法550条但書の「履行の終わった」に該当し、撤回できなくなるか。
規範
1. 債務者は、債権譲渡の通知前に取得した譲受人に対する反対債権が、通知の時点で相殺適状にあるときは、譲受人に対し相殺を主張できる。 2. 民法550条但書の「履行の終わった」とは、書面によらない贈与の解除を制限する趣旨から、不動産については必ずしも登記を要せず、引渡しがなされれば足りる。
重要事実
被上告人と内縁関係にあったDは、被上告人に対し土地を無償譲与(贈与)する約諾をした。その後、両者は内縁を解消し、被上告人がDに100万円を支払う契約(本件債務)を締結したが、同時に土地贈与の履行も再確認された。Dは本件債権を上告人に譲渡し通知した。被上告人は、Dの土地贈与義務が履行不能となったことによる損害賠償債権を自働債権として、上告人に譲渡された本件債務との相殺を主張し、請求異議を申し立てた。
あてはめ
1. 被上告人は債権譲渡の通知前にDに対し土地贈与に基づく債権(後に履行不能による損害賠償債権)を有しており、通知時点で相殺適状にあったため、譲受人である上告人に相殺を対抗できる。 2. Dから被上告人への土地贈与について、判決文上明示的な引渡し事実は不明だが、原審が「履行の終わりたる」と判断したことは、登記がなくとも引渡し等の占有移転があれば足りるという解釈に基づき正当である。
結論
1. 債務者は、譲受人に対し、通知前の相殺適状を理由に相殺をもって対抗できる。 2. 不動産贈与は引渡しがあれば「履行の終わった」といえ、書面によらない場合でも撤回できない。
実務上の射程
債権譲渡と相殺(民法468条関連)の基本判例。また、不動産贈与の解除制限における「履行」の概念を、対抗要件(登記)ではなく引渡しという実態で判断する実務上の重要指針となる。
事件番号: 昭和40(オ)652 / 裁判年月日: 昭和42年4月11日 / 結論: 棄却
執行債権と競落代金との差引計算は配当期日において許された場合にはじめてその効力を生ずるものであるから、控訴人(上告人)が原判示のごとくあらかじめ差引計算の意思表示をしても、これにより控訴人の本件債権および費用が消滅するいわれはない旨の原審の判断は正当である。
事件番号: 昭和33(オ)656 / 裁判年月日: 昭和34年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者が予め債権譲渡に同意を与えていた場合には、譲渡後に改めて民法467条1項所定の通知又は承諾がなくとも、債権譲受人は債務者に対して債権譲渡を対抗することができる。 第1 事案の概要:債権譲渡が行われる際、債務者はあらかじめその譲渡について同意を与えていた。その後、譲受人は債務者に対し債権譲渡の…