債権が譲渡され、その債務者が、譲渡通知を受けたにとどまり、かつ、右通知を受ける前に譲渡人に対して反対債権を取得していた場合において、譲受人が譲渡人である会社の取締役である等判示の事実関係があるときには、右被譲渡債権及び反対債権の弁済期の前後を問わず、両者の弁済期が到来すれば、被譲渡債権の債務者は、譲受人に対し、右反対債権を自働債権として、被譲渡債権と相殺することができる。
債権が譲渡される前から債権者に対して反対債権を有していた債務者が右反対債権を自働債権とし被譲渡債権を受働債権としてした相殺を有効と認めた事例
民法468条2項
判旨
債権譲渡の通知を受けた時点で債務者が反対債権を取得していれば、たとえ反対債権の弁済期が譲渡債権の弁済期よりも後に到来するものであっても、債務者は両債権が弁済期に達した後に相殺を主張して譲受人に対抗できる。
問題の所在(論点)
債権譲渡の通知を受けた時点で、債務者が譲渡人に対して有していた反対債権の弁済期が、譲渡債権の弁済期よりも後に到来する場合であっても、民法468条2項(現行468条1項)に基づき、債務者は譲受人に対して相殺を主張できるか。
規範
民法468条2項にいう「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」には、通知時点で取得していた反対債権による相殺も含まれる。相殺制度の担保的機能への信頼(期待利益)を保護する観点から、通知時に自働債権が存在していれば足り、自働債権と受働債権の弁済期の先後を問わず、両債権の弁済期が到来したときには相殺をもって譲受人に対抗できると解すべきである。
重要事実
債務者(上告人)は、譲渡人(会社D)に対し、昭和42年12月3日を弁済期とする売掛債務(受働債権)を負っていた。一方で債務者は譲渡人に対し、合計170万円の手形債権(自働債権)を有していた。譲渡人は昭和42年9月14日に売掛債権を譲受人(被上告人)に譲渡し、債務者に通知した。通知時点で手形債権の弁済期は未到来であったが、その後譲渡人の倒産(昭和43年1月13日)により期限の利益を喪失し、弁済期が到来した。受働債権の弁済期は自働債権のそれよりも先に到来していたが、債務者は譲受人からの請求に対し、手形債権を自働債権とする相殺を主張した。
あてはめ
本件において、債務者は売掛債権の譲渡通知を受けた当時、既に譲渡人に対し本件手形債権を取得していた。相殺制度は対立する債権債務を簡易に決済し、債権者に担保権に似た地位を与えるものであるから、債務者の地位を譲渡前より不利益にすべきではない。したがって、通知時に反対債権を取得していた以上、たとえ譲受債権(売掛債権)の弁済期が反対債権(手形債権)より先に到来したとしても、債務者が履行遅滞に陥りつつ反対債権の弁済期到来を待って相殺を主張することは、信義則に反する等の特段の事情がない限り許容される。
結論
債務者は、自働債権(手形債権)の弁済期が受働債権(売掛債権)より後であっても、相殺をもって譲受人に対抗できる。原判決のうち、相殺を認めず全額の支払を命じた部分は民法468条2項の解釈を誤ったものであり、破棄を免れない。
実務上の射程
本判決は、無制限説(自働債権の存在さえあれば弁済期の先後を問わない)を採用したリーディングケースである。答案上は、差押えと相殺(511条)に関する最大判昭45.6.24と同様の論理(相殺の担保的機能の重視)を用いて、468条についても同様に解すべきであることを論証する際に使用する。
事件番号: 昭和39(オ)1443 / 裁判年月日: 昭和40年9月17日 / 結論: 棄却
債務の弁済方法として約束手形が振り出された場合において、手形上の権利が時効により消滅しても、その原因関係上の債権もまた時効により消滅したときは、利得償還請求権が発生しない。