本人が無権代理人の家督を相続した場合、被相続人の無権代理行為は、右相続により当然には有効となるものではない。
本人が無権代理人を相続した場合における無権代理人行為の効力
民法113条,民法117条
判旨
本人が無権代理人を相続した場合、被相続人の無権代理行為は当然に有効となるものではなく、本人は本人としての資格で追認を拒絶することができる。
問題の所在(論点)
本人が無権代理人を単独相続した場合、民法113条1項に基づき本人が有する追認拒絶権は、無権代理人の債務を相続することによって消滅し、無権代理行為が当然に有効となるか。
規範
無権代理人が本人を相続した場合は、自らした無権代理行為につき本人の資格で追認拒絶を認めることは信義則に反するため当然に有効となる。これに対し、本人が無権代理人を相続した場合は、本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても何ら信義に反するところはないため、相続により当然に有効となるものではない。
重要事実
本件不動産の所有者である本人(上告人)に対し、無権代理人(亡D)が勝手に当該不動産を処分した。その後、本人が無権代理人の家督を相続した。相手方(被上告人)は、相続によって無権代理人たる資格と本人たる資格が同一人に帰属した結果、無権代理行為が当然に有効となり所有権が移転したと主張した。
事件番号: 昭和38(オ)1227 / 裁判年月日: 昭和41年9月8日 / 結論: その他
所有権に基づき土地の明渡を求めた当事者が相手方に対しその土地の使用を許した事実を主張し、裁判所がこれを確定した場合には、相手方が右事実を自己の利益に援用しなかつたときでも、裁判所は、その当事者の請求の当否を判断するについてその事実をしんしやくすべきである。
あてはめ
無権代理人が本人を相続する場合と異なり、本人が無権代理人を相続した本件では、本人はもともと本人としての地位(追認拒絶権)を有している。相続によって無権代理人の責任(民法117条)を承継したとしても、それにより本人自身の追認拒絶権が当然に行使できなくなるわけではない。本人が追認を拒絶したとしても、自ら無権代理行為を行ったわけではない以上、信義則に反するとはいえない。
結論
本人が無権代理人を相続しても、無権代理行為は当然には有効とならない。したがって、上告人(本人)による追認拒絶は認められ、所有権移転を認めた原判決は破棄される。
実務上の射程
本人が追認拒絶した場合、本人は無権代理人の損害賠償責任(117条)を相続し、相続財産の限度で履行または損害賠償の責任を負うことになる。答案上は「無権代理人が本人を相続した場合(当然有効)」と「本人が無権代理人を相続した場合(当然には有効にならない)」を、信義則の適用の有無によって明確に書き分ける必要がある。
事件番号: 昭和30(オ)327 / 裁判年月日: 昭和33年6月5日 / 結論: 棄却
家督相続開始の当時、被相続人の長男甲はすでに戦死しており、法律上、被相続人の長女乙が相続人であるにかかわらず、同人らの母は右戦死の事実を知らず、被相続人の所有に属していた係争不動産を甲において相続したものと考え、甲の代理人としてこれを第三者に売り渡す契約を締結した場合において、後日、真の家督相続人である乙が右売買契約を…
事件番号: 昭和32(オ)917 / 裁判年月日: 昭和35年3月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権のない者によって行われた土地の譲渡について、裁判所は代理権の欠如を理由に直ちに請求を排斥でき、譲渡の意思表示の有無を判断したり追認の有無を釈明したりする義務はない。 第1 事案の概要:上告人は、訴外Dが被上告人の代理人として本件各土地を上告人に譲渡したと主張した。しかし、Dが管理権や代理権を…
事件番号: 昭和32(オ)17 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人が本人になりすまして契約を締結した「署名代行型」の事案において、代理人として行為する意思がない以上、無権代理行為を前提とする追認(民法113条1項)は成立しない。 第1 事案の概要:訴外Dは、被上告人Bの不在中に無断で、Bが預けていた実印を冒用した。DはB本人になりすまして、上告人との間で売買…
事件番号: 昭和58(オ)1362 / 裁判年月日: 昭和63年3月1日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人を本人とともに相続した者がその後更に本人を相続した場合においては、本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解するのが相当である。