家督相続開始の当時、被相続人の長男甲はすでに戦死しており、法律上、被相続人の長女乙が相続人であるにかかわらず、同人らの母は右戦死の事実を知らず、被相続人の所有に属していた係争不動産を甲において相続したものと考え、甲の代理人としてこれを第三者に売り渡す契約を締結した場合において、後日、真の家督相続人である乙が右売買契約を追認したときは、民法第一一三条、第一一六条の類推適用によつて、右契約は、その締結の日に遡つて、乙のため効力を生ずるものと解するを相当とする
甲を代理して締結された売買契約について乙のなした追認が有効と認められた事例
民法113条,民法116条
判旨
無権代理において、本人が死亡し真実の権利者が別に存在する場合でも、その真実の権利者が当該無権代理行為を追認したときは、民法113条及び116条を類推適用し、契約時に遡って効力を生ずる。
問題の所在(論点)
代理人と称する者が、既に死亡している者を本人として行った無権代理行為について、真実の権利者が追認した場合、民法113条・116条が類推適用され、有効な契約として遡及的効力を生ずるか。
規範
本人が既に死亡しており、たまたま別人が相続等により真実の権利者となっていた場合であっても、その権利者が無権代理行為を追認したときは、民法113条、116条の類推適用により、契約の時に遡ってその効力が生ずる。本来本人たり得た立場にある者が、自己に属する権利を処分する意思表示の効果を阻止すべき理由はないからである。
重要事実
亡Dの不動産につき、Dの妻Fは、出征中の長男Gが家督相続したと誤信し、Gの代理人として被上告人に売却した。しかし、Gは契約前に既に戦死しており、真実の家督相続人は長女Eであった。その後、真実の権利者であるEが、Fのなした売買契約を追認した。上告人(占有者)は、契約当時に本人が死亡していたこと等を理由に、契約の無効を主張した。
あてはめ
本件では、FがGの代理人として契約を締結した際、Gは既に死亡していたが、真実の権利者であるEが後にこれを追認している。Eは本来本人たり得べき立場にあり、自己に帰属した不動産の処分を認める意思表示をしている以上、その効果を否定する必要はない。したがって、民法113条等の類推適用により、Fの行為は契約時に遡って有効となる。また、本人が死亡していたからといって直ちに契約が当然無効となるわけではなく、当事者特定の原則にも反しない。
結論
真実の権利者による追認は有効であり、売買契約は遡及的に効力を生ずる。したがって、被上告人は所有権に基づき、不法占拠者である上告人に対し、登記の有無にかかわらず建物の明渡しを請求できる。
実務上の射程
本人が無権代理行為の「前」に死亡している特殊な事例(死者名義の代理)に関する。真実の権利者が追認した場合には有効性を認めるという柔軟な判断を示しており、私的自治の尊重と取引の安全の観点から、追認の遡及効を肯定する論拠として答案で利用できる。
事件番号: 昭和39(オ)1034 / 裁判年月日: 昭和40年7月16日 / 結論: 棄却
弁護士甲が第一審において乙の適法な訴訟代理権を有しなかつたとしても、控訴人乙から適法な委任を受けた弁護士丙が控訴審において乙の訴訟代理人として当該訴訟の本案について弁論をし、訴訟を進行し、判決を受けたときは、丙は甲の従前の訴訟行為全部を追認したものというべきである。
事件番号: 昭和35(オ)3 / 裁判年月日: 昭和37年4月20日 / 結論: 破棄差戻
本人が無権代理人の家督を相続した場合、被相続人の無権代理行為は、右相続により当然には有効となるものではない。