訴状に被告として表示されている者が裁判所に対する訴状の提出後その送達前に死亡した場合において、相続人が異議を述べずに被告の訴訟を承継する手続をとり、第一、二審を通じて、自ら進んで訴訟行為をしたなど判示のような訴訟の経過(判決理由参照)のもとでは、相続人において、本件訴訟の被告が死者であるとして、上告審において自らの訴訟行為の無効を主張することは、信義則上許されない。
信義則上訴訟行為の無効を主張しえないとされた事例
民訴法第1編第4章第1節,民訴法208条,民訴法229条
判旨
死者を被告として提起された訴えは原則として不適法だが、その相続人が自ら進んで受継手続を行い、異議なく本案の審理を受けて判決を得た場合、後から死者被告を理由に訴訟手続の無効を主張することは信義則上許されない。
問題の所在(論点)
死者を被告として提起された訴訟において、その相続人が自ら受継申立てを行い本案について争った後、当該訴訟の無効を主張することが認められるか。
規範
訴えの提起前に被告が死亡していた場合、原則としてその訴えは不適法であり、送達等の訴訟手続も無効である。しかし、実質的な当事者である相続人が、自ら進んで訴訟を承継する旨の申立てを行い、相手方も異議を述べずに本案の審理が進められた場合には、当事者間に当該訴訟を有効なものとして継続させる合理的な意思が認められる。したがって、かかる事情があるときは、信義則(民訴法2条参照)に基づき、後に訴訟手続の無効を主張することは許されない。
重要事実
原告は被告Dに対し訴えを提起したが、Dは訴状送達前の昭和37年3月16日に死亡していた。同年3月23日にD宛に送達されたが、Dが死亡していたため、第一審裁判所は期日を指定し直す等の措置をとった。その後、Dの相続人ら(上告人A1〜A3)は、自ら訴訟代理人を選任して訴訟を承継する旨の申立てを行い、裁判所の許可を得た上で、第一審および第二審において合計13回以上の口頭弁論期日を重ね、本案の争点について争った。判決により敗訴した後、上告審において初めて「被告Dは訴え提起時に死亡していたため訴訟手続は無効である」と主張した。
あてはめ
本件において、上告人らは自ら進んでDの訴訟を承継する手続を取り、当初から何ら異議を述べずに、第一審および第二審の全訴訟手続を遂行している。この過程で、上告人らは被上告人の請求の適否について実質的な審理を受けており、当事者としての地位を十分に享受したといえる。それにもかかわらず、上告審に至ってから被告が死者であったことを理由に自らの訴訟行為の無効を主張することは、それまでの訴訟態度と矛盾するものであり、相手方の期待を裏切る不当な行為である。かかる主張は、訴訟上の信義則に著しく反するものと解される。
結論
上告人らが死者被告を理由に訴訟手続の無効を主張することは、信義則上許されない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
死者名義の訴えであっても、実質的な当事者(相続人)が訴訟に関与し、手続保障が事実上充足されている場合には、禁反言的に手続の有効性を認める「死者被告訴訟の有効化」の法理として答案で使用する。ただし、相続人が関与せず欠席判決が出たような場合は、依然として無効(ないし当然無効)とされる点に留意が必要である。
事件番号: 昭和30(オ)327 / 裁判年月日: 昭和33年6月5日 / 結論: 棄却
家督相続開始の当時、被相続人の長男甲はすでに戦死しており、法律上、被相続人の長女乙が相続人であるにかかわらず、同人らの母は右戦死の事実を知らず、被相続人の所有に属していた係争不動産を甲において相続したものと考え、甲の代理人としてこれを第三者に売り渡す契約を締結した場合において、後日、真の家督相続人である乙が右売買契約を…