自動車事故により傷害を受けた者が、将来営業活動不能による損害賠償を命ずる確定判決をえた後、負傷が快癒し、電話を引くなどして堂々と営業している反面、加害者が右賠償義務の負担を苦にして自殺するなどの事故があつたにも拘らず、右判決確定後五年を経て、加害者の相続人である父母に対し強制執行をする等の事情があつたとすれば右の強制執行は権利の濫用にあたらないとはいえない。
確定判決に基づく強制執行と権利の濫用
民訴法545条,民法1条
判旨
確定判決に基づく強制執行であっても、判決後の著しい事情の変更により執行が誠実信義の原則に背反し、権利の濫用にあたる場合には、請求異議の訴えによりこれを許さないことができる。
問題の所在(論点)
確定判決に基づく強制執行が、判決確定後の事情変更によって信義則違反または権利濫用となる場合、請求異議の訴えをもってその執行を排斥できるか。特に、既判力との関係が問題となる。
規範
確定判決上の権利であっても信義に従い誠実に行使すべきであり、これを濫用してはならない。判決後に生じた事情の変化により、確定判決の内容をそのまま執行することが信義誠実の原則に著しく反する特段の事情がある場合には、民事執行法上の請求異議の訴え(旧民訴法545条)により、執行を阻止することが認められる。
重要事実
被害者(被上告人)が交通事故により荷馬車挽の営業不能による逸失利益(50万円)の損害賠償を認める判決を得て確定した。加害者(D)はその債務負担を苦に自殺し、両親(上告人)が相続した。その後、被上告人は負傷から回復して電話を架設し堂々と営業を再開したが、判決確定から5年後、突如として上告人の不動産に対し強制執行を申し立てた。
あてはめ
本件判決による賠償請求権は、将来にわたる営業活動不能を前提に肯定されたものである。しかし、被上告人の負傷が快癒し自ら営業可能な状態に回復しているならば、前提となる事情が根本的に変化している。また、加害者が自殺し、その父母が相続した債務に対し、5年後になって突如執行に及ぶという経緯も考慮すべきである。このような事情変更のもとでの強制執行は、単なる既判力の問題にとどまらず、誠実信義の原則に背反し権利濫用の疑いがある。原審が既判力理論のみに依拠して請求を排斥したのは不当である。
結論
確定判決に基づく執行であっても、執行自体が不法・不当な場合には請求異議の訴えを許容すべきである。原判決を破棄し、事情変更の有無を審理させるため差し戻す。
実務上の射程
既判力の遮断効を制限し、執行段階での信義則適用を認めた重要判例である。答案上は、請求異議の事由が既判力に抵触する場合であっても、信義則・権利濫用という「一般条項」を介することで救済の余地があることを論じる際に引用する。
事件番号: 昭和52(オ)633 / 裁判年月日: 昭和55年12月9日 / 結論: 棄却
一 執行文付与に対する異議の訴における事実審の口頭弁論終結時までに生じていた請求に関する異議事由を後訴である請求に関する異議の訴において主張することは許される。 二 民訴法三八九条一項により事件を第一審に差戻すか否かは、原則として、控訴裁判所の裁量に委ねられる。