民法第一八七条第一項は相続による承継にも適用がある。
相続人は民法第一八七条第一項の承継人にあたるか
民法187条
判旨
民法187条1項の「占有者の承継人」には相続等の包括承継人も含まれ、相続人は自己の占有のみを主張し、又は前主の占有を併せて主張するかを選択できる。
問題の所在(論点)
民法187条1項に規定する「占有者の承継人」に、相続のような包括承継人が含まれるか。また、相続人は被相続人の占有の態様(善意・悪意)に拘束されず、自己の占有のみを分離して主張できるか。
規範
民法187条1項にいう「占有者の承継人」には、相続のような包括承継人も含まれる。相続人は被相続人の占有の態様(善意・悪意等)を当然に承継するものではなく、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、または被相続人の占有を併せて主張することができる。
重要事実
上告人先々代Dが本件土地を悪意で占有していたところ、Dの死亡により家督相続した先代Eが占有を承継した。原審は、Eの占有はDの占有の性質を変えるものではなく、悪意の占有を承継したものであるとして、10年の短期取得時効(民法162条2項)の成立を否定した。これに対し、Eが占有開始時に善意無過失であった場合に、E自身の占有のみを分離して主張し、短期取得時効が成立するかが争点となった。
あてはめ
民法187条1項は「占有者の承継人」の選択権を認めているが、本条は包括承継の場合にも適用されると解するのが相当である。本件において、上告人は先代Eの占有を自己の占有として主張できるところ、もしEが相続により占有を開始した時点で善意・無過失であれば、E自身の占有期間のみをもって10年の取得時効を主張することが可能となる。原審はEの占有開始時の善意・無過失を判断せずにDの悪意を承継すると判断しており、法令解釈の誤りがある。
結論
相続人は自己の占有のみを分離して主張できるため、相続開始時に善意無過失であれば、前主が悪意であっても10年の短期取得時効を主張し得る。原判決を破棄し、審理を尽くさせるため差し戻す。
実務上の射程
相続による占有承継において、前主の悪意を切り離して自己の代からの短期時効を主張する際の根拠となる。ただし、自己の占有のみを主張する場合は、占有開始時(相続時)に新たな権原または占有の性質の変更(民法185条)が必要かという論点と混同しないよう注意を要する。
事件番号: 昭和53(オ)1350 / 裁判年月日: 昭和56年1月27日 / 結論: 棄却
土地の買主が売買契約に基づいて目的土地の占有を取得した場合には、右売買が他人の物の売買であるため土地の所有権を直ちに取得するものでないことを買主が知つているときであつても、買主において所有者から使用権限の設定を受けるなど特段の事情のない限り、買主の占有は所有の意思をもつてするものとすべきである。
事件番号: 昭和33(オ)547 / 裁判年月日: 昭和34年4月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産を時効取得した占有者は、時効完成後に当該不動産を譲り受け登記を了した第三者に対し、登記がなければ時効による権利取得を対抗できない。また、当該第三者が時効取得の事実について悪意であっても、背信的悪意者と評価される特段の事情がない限り、同様である。 第1 事案の概要:1.上告人ら51名は、本件山…
事件番号: 昭和47(オ)1188 / 裁判年月日: 昭和48年10月5日 / 結論: 棄却
一、入会部落の総有に属する土地の譲渡を受けた同部落の構成員は、右譲渡前にこれを時効取得した者に対する関係において、民法一七七条にいう第三者にあたる。 二、一筆の土地の一部を時効取得した場合でも、右土地部分の所有権取得につき登記がないときは、時効完成後旧所有者からこれを買い受けた第三者に対抗することができない。