登記と引換に支払うべき代金債務につき、期間を定めて履行の催告があつた場合に、債務者において催告期間の末日に代金を持参して登記所に出頭したときは、適法な弁済の提供をしたものと認むべきであつて、その提供に先だちあらかじめその日時を債権者に通知することは必要ではない。
期間を定めて登記と引換に代金債務の履行を催告した場合と債務者の提供の方法。
民法493条,民法541条
判旨
売主が期間を指定して催告した場合、買主がその最終日に履行場所である登記所へ代金を持参して出頭すれば、売主の出頭がない場合でも買主は履行遅滞の責を免れる。この場合、買主が事前に出頭日時を通知していなくとも、売主は受領遅滞に陥り、解除権は発生しない。
問題の所在(論点)
催告による履行期限の最終日に、買主が事前通知なく履行場所に出頭した場合、有効な履行の提供(民法412条、541条、493条)が認められ、売主の解除権は消滅するか。
規範
双務契約において、債権者(売主)が相当の期間を定めて債務者(買主)に対し履行を催告したときは、債権者は改めて履行日時の通知を受けるか否かにかかわらず、少なくとも当該期間の最終日には履行場所に赴き、債務者の出頭を待って協力すべき義務がある。債務者がこの最終日に履行場所に出頭して提供の準備を整えていれば、事前通知がなくとも有効な履行の提供(民法492条、493条)となり、債務者は履行遅滞を免れるとともに債権者は受領遅滞(413条)に陥る。
重要事実
不動産売買契約において、買主(被告・上告人)が残代金の支払を延期していたため、売主(原告・被上告人)は内容証明郵便で「8月31日限り」の期限を定めて残代金の支払を催告した。買主は指定された最終日の8月31日に、融資担当者を伴って残代金を持参し、履行場所である法務局に出頭したが、売主は来場しなかった。買主は出頭日時を事前通知していなかった。売主は翌9月1日に履行遅滞を理由とする解除を通知し、土地の明渡し等を求めて提訴した。
事件番号: 昭和31(オ)258 / 裁判年月日: 昭和32年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】催告期間内に「本旨に従う履行の提供」がなされない限り、解除権の発生を妨げることはできず、期間経過後の履行提供は解除の効力を左右しない。また、特段の事情がない限り、有効な催告に基づく解除権の行使は権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は債務の履行を怠り、被上告人から相当期間を定めた催告…
あてはめ
売主が自ら期間を指定して催告した以上、その期間の最終日に買主が履行のために出頭することは当然に予期されるべきである。本件買主は、催告の最終日に代金を携行して履行場所である広島法務局に出頭しており、これは債務の本旨に従った提供といえる。たとえ具体的な出頭日時を事前に通知していなかったとしても、売主は当該期間中(少なくとも最終日)は受領に応じる態勢を整えるべき義務がある。それにもかかわらず売主が来場しなかった以上、不履行の責任は売主にあり、買主は履行遅滞を免れる。
結論
買主の出頭は有効な履行の提供であり、履行遅滞は解消されたため、売主による解除の意思表示は無効である。売主の請求は棄却される。
実務上の射程
同時履行の抗弁権を排して解除権を行使しようとする側(催告側)が、相手方の出頭を待たずに「提供がない」と主張することの不当性を指摘する文脈で使用する。特に不動産取引のように登記所等の公的な場所が履行場所となる事案において、催告期間最終日の待機義務を基礎付ける規範として有用である。
事件番号: 昭和31(オ)748 / 裁判年月日: 昭和33年2月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約が解除された場合における、既払代金の返還義務と目的物の返還義務は同時履行の関係に立つが、本判決は個別事情によりこれらを否定した。契約解除に伴う原状回復義務相互の同時履行関係の有無が争点となる。 第1 事案の概要:上告人(買主)が売買残代金の支払を怠ったため、被上告人(売主)が売買契約を解除…
事件番号: 昭和32(オ)665 / 裁判年月日: 昭和36年4月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決言渡期日に出頭した当事者に対し、延期後の新期日を告知した場合には、その場にいなかった不出頭の当事者に対しても告知の効力が生じる。 第1 事案の概要:控訴審において、昭和32年2月1日の口頭弁論に出頭した被控訴人(上告人)代理人に対し、裁判所は判決言渡期日を同年2月15日と指定告知した。その後、…
事件番号: 昭和32(オ)394 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
地代家賃統制令の統制額を超える賃料を、自己に支払義務のないことを知りながら支払つた賃借人は、その返還を請求することができない。
事件番号: 昭和32(オ)705 / 裁判年月日: 昭和34年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】期間を定めずに催告をした場合であっても、債務者が履行遅滞に陥っているときは、催告の時から相当の期間を経過すれば、解除権を行使し得る。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、昭和27年度分の賃料の支払を怠っていた。被上告人(賃貸人)は、本件訴訟の訴状の送達をもって、契約解除の前提となる催告を行った。…