一 家督相続人指定の遺言をなした者が改正民法施行後に死亡した場合には、右遺言は、特段の事情のないかぎり、なんらの効力を生じない。 二 家督相続人指定の遺言書中に、甲を家督相続人に指定する旨および乙等に対し財産の一部を遺贈する旨の記載があるにとどまり、他に遺言者に包括遺贈の意思があつたことを看取するに足る表示行為と目すべき事実上の記載がないときは、右遺言に包括遺贈の効力を認めることはできない。 三 相続人は、被相続人の遺言執行者を被告となし、遺言の無効を主張して、相続財産につき持分を有することの確認を求めることができる。
一 家督相続人指定の遺言をなした者が改正民法施行後に死亡した場合における右遺言の効力 二 家督相続人指定の遺言を包括遺贈と見ることができるか 三 遺言執行者に対する訴の適否
旧民法(昭和22年法律222号による改正前のもの)979条,民法985条,民法附則4条,民法附則985条,民法附則990条,民法附則119条,民法1012条,民法1013条,民訴法45条
判旨
旧民法施行下になされた家督相続人指定の遺言は、新法施行後に遺言者が死亡した場合には原則として無効であり、遺言書から包括的遺贈の意思表示が看取されない限り包括遺贈として有効になることはない。
問題の所在(論点)
新法(現行民法)施行前になされた家督相続人指定の遺言は、新法施行後に遺言者が死亡した場合に包括遺贈として有効か、また遺言執行者が存在する事案における相続人の処分権限と訴訟適格はどう解されるか。
規範
旧民法下での家督相続人指定は家督相続の効果として権利義務を承継させるものであり、指定そのものに財産承継の意思表示は包含されない。新法施行後の死亡により家督相続が廃止された場合、当該遺言は特段の事情がない限り効力を生じない。もっとも、遺言書の解釈により、表示された内容を通じて包括遺贈の意思表示が看取される場合に限り、包括的遺贈として有効と認められる。
重要事実
事件番号: 昭和28(オ)805 / 裁判年月日: 昭和30年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】戸主による家督相続人の指定は、指定権者にその決意があると認められ、かつ、その旨の届出が市町村長に受理された場合には、その効力を有する。 第1 事案の概要:戸主Dは、死亡前の十数年間にわたりEと事実上の夫婦関係にあった。Dは、Eの実弟である被上告人を自らの家督相続人に指定する決意を有していた。昭和1…
遺言者Dは、昭和15年、Eを家督相続人に指定し、被上告人らに対し財産の一部を遺贈する旨の公正証書遺言を作成した。その後、Dは昭和16年に被上告人らへの遺贈部分を取り消す遺言をしたが、新法施行後の昭和23年に死亡した。遺言執行者に選任された上告人は、Dの不動産は遺言によりEに帰属したと主張したのに対し、被上告人らはDの死亡により共有持分権を有すると主張して確認訴訟を提起した。
あてはめ
本件遺言書にはEを家督相続人に指定する旨の記載はあるが、他に包括遺贈の意思を看取すべき表示行為の記載はない。被上告人らへの遺贈取消しの事実からEへの財産承継の意思が窺えるとしても、要式行為である遺言の効力判定において、表示されていない意思を補充することはできない。また、遺言執行者の選任事実のみから財産承継の意思表示が包含されているとはいえない。したがって、本件遺言は包括遺贈としての効力を有さず、本件不動産は相続人に帰属する。
結論
家督相続人指定の遺言は原則として無効であり、包括遺贈としての意思表示が看取されない本件では財産承継の効力は生じない。遺言執行者は、遺言の有効性が争われる局面において被告適格を有し、相続人はその確認を求める利益がある。
実務上の射程
新旧法の過渡期の判断だが、意思表示の解釈において「要式性」を重視し、表示されていない内心的効果意思を容易に認めない姿勢は現在の遺言解釈でも重要である。また、遺言執行者がいる場合の相続人の処分権限制限(民法1013条)と、遺言執行者の訴訟当事者適格の範囲を検討する際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和50(オ)878 / 裁判年月日: 昭和54年7月10日 / 結論: 破棄差戻
一 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人甲が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分について他の共同相続人乙の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、乙の相続権を侵害しているため、乙が右侵害の排除を求める場合には、相続回復請求権の規定の適用があるが、甲においてその部分が…
事件番号: 昭和35(オ)1383 / 裁判年月日: 昭和37年6月19日 / 結論: 棄却
賃貸人の所有宅地上に賃借人が自費で建築した家屋を賃貸人に無償譲渡したうえ、該家屋を賃借することは特段の事情のない限り自由であり、借地法の禁止事項の実現を目的とした脱法行為とはいえない。
事件番号: 平成21(受)1260 / 裁判年月日: 平成23年2月22日 / 結論: 棄却
遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定する「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記…