一 罹災都市借地借家臨時処理法第一〇条の適用を受ける借地権者が同法施行後当該借地上に建物を建設しても、同条による借地権の対抗力は消滅するもの解すべきではない。 二 賃貸借の目的たる土地が駐留軍により接収されたため、賃借人に右土地を使用させる賃貸人の債務の履行が一時的に不能となつても、賃貸人は、事情の変更を理由として賃貸借契約を解除することはできない。
一 罹災都市借地借家臨時処理法第一〇条の借地権者が同法施行後借地上に建物を建設した場合と同条による借地権の対抗力の有無 二 賃貸借の目的土地の接収による賃貸人の履行不能と賃貸人の事情変更による解除権の有無
罹災都市借地借家臨時処理法10条,民法1条2項,民法3款契約解除(540条)
判旨
罹災都市借地借家臨時処理法10条は、借地権者が建物を建設したか否かにかかわらず、同条所定の期間内に土地権利を取得した第三者に対し、登記なくして借地権を対抗できる旨を定めたものである。また、占領軍による土地接収は一時的履行不能にすぎず、これをもって借地契約の解除や消滅を認めることはできない。
問題の所在(論点)
1. 借地権者が建物を建設した後においても、処理法10条による無登記の対抗力が認められるか。2. 占領軍による土地接収(一時的履行不能)を理由に、貸主側から借地契約を解除できるか。
規範
1. 罹災都市借地借家臨時処理法(以下「処理法」)10条の対抗力は、借地権者が建物を建設した後であっても、同条所定の期間内に権利を取得した第三者との関係では、登記なくして維持される。2. 債務が一時的に履行不能となった場合、債務者は履行遅滞の責を免れるにとどまり、債務そのものが消滅したり、債務者側から契約を解除したりすることはできない。3. 事情変更による解除権は、契約の拘束力を維持することが客観的に信義則上著しく不合理な場合に限定される。
重要事実
事件番号: 昭和27(オ)1088 / 裁判年月日: 昭和32年1月31日 / 結論: 破棄差戻
罹災都市借地借家臨時処理法第一〇条の適用を受ける罹災建物の敷地の借地権者は、必ずしも、右建物の滅失当時、その借地権または建物につき登記を有した者に限らないと解すべきである。
罹災地の借地権者である被上告人は、本件土地上に建物を建設したが、その登記を経ないまま、処理法10条所定の期間内に土地を取得した上告人に対し借地権を主張した。これに対し上告人は、建物建設後は建物保護法が適用されるべきであり、処理法10条の適用はないと主張した。また、本件土地が占領軍により接収されたことを理由に、履行不能または事情変更による借地契約の解除・消滅を主張して争った。
あてはめ
1. 処理法10条の文言上、建物建設により適用を排除する規定はない。施行当時の社会状況に照らせば、建設後直ちに登記を期待することは困難であり、建物建設前の取得者に対抗できる以上、建設後の取得者に対抗させても不当に第三者を害さない。2. 本件土地の接収は将来解除されることが明らかであり「一時的履行不能」にすぎないため、消滅事由にはならない。また、被上告人は現実に特段の義務履行を求めているわけではなく、契約を維持することが著しく不合理とはいえないため、事情変更による解除も認められない。
結論
借地権者は建物登記がなくとも上告人に借地権を対抗でき、また、接収を理由とする契約解除も認められないため、借地権はなお存続する。
実務上の射程
特別法による対抗力の特則に関する判断であるが、一時的履行不能の法的性質(債務は消滅せず遅滞責任が免除されるのみ)や、事情変更の法理の厳格な適用要件を示す判例として、契約法全般の論述において参照し得る。
事件番号: 昭和30(オ)810 / 裁判年月日: 昭和32年6月27日 / 結論: 棄却
戦時罹災土地物件令附則第三項にいう「空襲其ノ他戦争ニ起因スル災害ニ因リ滅失シタル建物ノ敷地」には、疎開建物の敷地の如きを、包含しないものと解すべきである。
事件番号: 昭和30(オ)163 / 裁判年月日: 昭和33年4月25日 / 結論: 棄却
罹災都市借地借家臨時処理法施行前に強制疎開跡地の借地権を譲り受けた者については、同法第九条、第三条および第四条の適用はない
事件番号: 昭和30(オ)859 / 裁判年月日: 昭和31年6月1日 / 結論: 棄却
罹災都市借地借家臨時処理法第一〇条による借地権の対抗を受ける第三者の中には、当該土地について借地権を取得しその上に登記した建物を所有する者をも含む。