認知の訴において(イ)甲(原告)の母は、受胎可能の日、乙(被告)と情交を通じた事実、(ロ)各種血液型の検査、血液中の凝血素価と凝集素の分析の結果によれば、甲乙間に父子関係があつても矛盾することのない事実、並びに(ハ)乙は、甲の出生当時、甲を抱擁する等父親としての愛情を示したことがある事実、その他判文記載の事実関係(判決理由参照)が認められる以上、他に別段の事情のないかぎり、甲が乙の子であるとの事実は証明せられたものというべきである。
認知の訴において父子関係の存在が証明されたと認むべき一事例
民法787条,民訴法185条,人事訴訟法29条ノ2
判旨
認知請求の訴えにおいて、受胎可能期間内の性交、血液型の矛盾の欠如、懐胎の告知、及び父親としての愛情表現等の事実がある場合、他に推認を妨げる別段の事情がない限り、父子関係は証明されたものと解すべきである。指紋、掌紋、人類学的考察結果のみをもってこの推認を否定することは、経験則の適用を誤るものである。
問題の所在(論点)
民法787条に基づく認知請求において、受胎事実や父親としての言動が認められる場合に、科学的絶対性が乏しい身体的特徴の鑑定(指紋・掌紋等)や過去の素行をもって父子関係を否定することが許されるか。
規範
認知請求における父子関係の立証については、受胎可能期間における性交の事実、血液型鑑定による矛盾の不在、及び懐胎・出産前後の当事者の言動(認知の期待を抱かせるような愛情表現や経済的支援など)から、特段の事情がない限り父子関係を推認すべきである。指紋や身体的特徴の類似性といった人類学的考察は、参考資料に留まり、前述の推認を直ちに覆すに足りる事情とはならない。
重要事実
上告人の母Dと被上告人は長年情交関係にあり、受胎可能期間中に性交があった。血液型検査でも矛盾はなかった。被上告人はDから妊娠を告げられた後も頻繁に訪ね、出産後には子を抱擁し、分娩費や生活費を一部負担し、第三者に対し「男として責任を持つ」と明言していた。しかし、原審は指紋・掌紋の相違やDの過去の異性関係を理由に、父子関係の立証が不十分であるとして請求を棄却した。
あてはめ
確定した事実によれば、受胎可能期間中の性交、血液型の一致に加え、被上告人が父親としての愛情を示し、経済的負担や責任の言明まで行っている。これらから父子関係は一応推認される。原審が重視した指紋等の鑑定結果は、父子間でも相違が生じ得るものであり、父子関係を否定する決定的な資料とはなり得ない。また、Dの過去の異性関係は本件受胎当時の他男性との情交を推認させるものではないため、推認を妨げる「別段の事情」には当たらない。
結論
被上告人と上告人の間には父子関係が証明されたというべきであり、立証不十分とした原判決には経験則の適用を誤った違法がある。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
認知の訴えにおける事実上の推定の働き方を示す。DNA鑑定が普及した現代では、本判決が挙げた人類学的考察の証拠価値はさらに低下しているが、「性交の事実+父親らしい言動」から父子関係を肯定する判断枠組みは、鑑定が不能な事案等において依然として重要である。
事件番号: 昭和29(オ)928 / 裁判年月日: 昭和32年6月21日 / 結論: 棄却
認知の訴において、(イ)甲(原告)の母は、受胎可能の期間中乙(被告)と継続的に情交を結んだ事実があり、(ロ)乙以外の男と情交関係のあつた事情が認められず、(ハ)血液型検査の結果によつても、甲乙間には血液型の上の背馳がないときは、他に別段の事情のないかぎり、甲が乙の子であるとの事実は証明せられたものと認めても、経験則に違…