認知の訴において父子関係存在の認定の資料とされた鑑定の結果中、ABO式血液型に関する鑑定部分が不十分なものであつても、MN式血液型、S式血液型、指紋掌紋等による鑑定部分によりその認定を首肯できるときは、その採証につき判決に影響をおよぼすべき違法があるものとは言えない。
鑑定の一部が不十分な場合と採証法則違反の有無
民訴法185条
判旨
親子関係の存否を判断するにあたり、特定の事実関係から推定が生じない場合であっても、血液型鑑定や指紋等の身体的特徴の比較、その他の諸事実を総合して親子関係を認定することは裁判所の裁量に属し、自由な心証によって事実を認定できる。
問題の所在(論点)
親子関係の存否を確認する訴えにおいて、過去の判例が示した定型的な推認要件を満たさない場合や、科学的鑑定の結果が「父であっても矛盾しない」という消極的・蓋然的な内容に留まる場合に、裁判所が親子関係を認定することは許されるか。自由心証主義と事実認定の合理性が問われた。
規範
事実認定における証拠の取捨選択および心証形成は、裁判所の合理的な裁量に属する。親子関係の認定において、過去の判例が示した一定の要件を満たさない場合であっても、それが直ちに親子関係を否定する根拠となるものではない。科学的鑑定(血液型、指紋、掌紋、足紋等)の結果、親子関係に矛盾がなく、かつ身体的特徴に強い類似性が認められる場合には、これらを総合的な証拠として親子関係を肯定する事実認定を行うことが可能である。
重要事実
上告人Aと被上告人Bとの間の親子関係が争われた事案。原審は、鑑定人Dによる血液型(ABO式、MN式、S式)の検査、および指紋、掌紋、足紋、写真の比較鑑定を採用した。鑑定結果は「Bの母がEである限り、父がAであっても不合理な点はなく、特に指紋・掌紋の特徴はAに酷似しており単なる偶然とは考えにくい」というものであった。上告人は、過去の判例が示す親子推定の要件を満たさないことや、血液型鑑定の不備、別の鑑定人Fによる異なる見解があることを理由に、原審の事実認定の違法を主張して上告した。
あてはめ
原審は、特定の判例が示した事実関係(イ)(ロ)(ハ)のみに拘束されず、本件固有の証拠を検討している。具体的には、ABO式に加えMN式等の血液型鑑定の結果、親子関係を否定する要素がないこと、さらに指紋・掌紋・足紋等の身体的特徴がAと酷似しているという鑑定事実を参酌している。これらは、単に矛盾がないというだけでなく、積極的な類似性を示す有力な間接事実といえる。証拠の取捨選択は裁判所の裁量であり、鑑定結果に一部不備がある可能性や他鑑定との相違があっても、それらを総合して合理的な心証を得ている以上、経験則に反するとはいえない。
結論
原審が血液型や指紋等の鑑定結果を総合してなした親子関係の認定に違法はなく、判例違反も認められない。上告棄却。
実務上の射程
民事訴訟法における自由心証主義の適用例として重要。DNA鑑定が普及した現代では、本判決のような指紋等の比較による認定の必要性は低下しているが、科学的証拠が「父子関係を否定しない」という消極的結果に留まる場合に、他の間接事実を組み合わせて親子関係を認定する際の思考プロセスとして、現在も実務上参照される射程を有している。
事件番号: 昭和29(オ)856 / 裁判年月日: 昭和31年9月13日 / 結論: 破棄差戻
認知の訴において(イ)甲(原告)の母は、受胎可能の日、乙(被告)と情交を通じた事実、(ロ)各種血液型の検査、血液中の凝血素価と凝集素の分析の結果によれば、甲乙間に父子関係があつても矛盾することのない事実、並びに(ハ)乙は、甲の出生当時、甲を抱擁する等父親としての愛情を示したことがある事実、その他判文記載の事実関係(判決…