甲家屋の賃貸人が代りの乙家屋を提供してした解約申入が正当事由を具え、右申入により賃貸借が終了した事実に基き賃貸人の家屋明渡の請求を認容する判決の主文において、賃貸人が乙家屋の賃貸および引渡の提供をすることを条件と定めて、賃借人に甲家屋の明渡を命じても、違法ではない。
代りの家屋の賃貸および引渡の提供を条件と定めて家屋明渡を命ずる判決の適否
借家法1条ノ2,民訴法518条2項,民訴法520条
判旨
建物の賃貸人が立退料や代替建物の提供を申し出た場合、無条件での解約申入れに正当事由が欠けていても、引換給付の提供を条件として正当事由が具備されることが認められる。この場合、裁判所は引換給付を条件とする建物明渡しの引換給付判決を言い渡すことができる。
問題の所在(論点)
賃貸借契約の解約申入れにおいて、代替建物の提供等の申出によって正当事由の欠落を補完し、引換給付判決をすることが許されるか。また、その執行可能性はどう確保されるか。
規範
借地借家法28条(旧借家法1条ノ2)の「正当事由」の有無は、建物の使用を必要とする事情に加え、賃貸人が建物の明渡しの条件として財産上の給付(立退料等)や代替建物の提供を申し出た場合には、その内容を考慮して判断される。無条件の解約申入れでは正当事由が認められない場合であっても、代替家屋の提供等の条件を補完することで、正当事由の具備を認めることができる。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、賃借人(上告人)に対し、本件家屋の賃貸借契約を解約する旨の申入れを行った。原審は、無条件での明渡しを求める点については正当事由が認められないとしたが、被上告人が代替の離家等を居住のために提供し、便所の使用等を許容する旨を申し出ている点に着目した。これを前提とするならば、解約申入れは正当事由を具備するものと認められるとして、代替家屋の提供等を条件とする引換給付判決を言い渡した。これに対し賃借人側が、条件付判決の違法性等を主張して上告した。
あてはめ
被上告人による解約申入れは、代替家屋の提供を伴うことで正当事由を充足している。本件判決は、この提供を明渡執行の条件として定めたものであり、上告人が代替家屋の賃貸提供を承諾し引渡しを受けるか否かは自由であって強制されるものではない。執行に際しては、被上告人が代替家屋の提供および引渡しの提供をした事実を裁判所に証明して執行文の付与を受ければ足り、上告人の承諾の有無は執行の障害とならない。
結論
代替建物の提供を条件とする解約申入れには正当事由が認められ、その提供を条件とする明渡請求は認容される。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
正当事由が不十分な場合に、立退料の支払いや代替建物の提供といった「補完的要素」を考慮して引換給付判決(条件付判決)を認める実務の根拠となる判例である。答案上では、28条の判断枠組みとして、主観的事情だけでなく申出額等の客観的事情を相関的に考慮し、結論として引換給付判決の可否を論じる際に参照すべきである。
事件番号: 昭和28(オ)893 / 裁判年月日: 昭和30年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地借家法上の更新拒絶や解約申入れにおける「正当の事由」は、賃貸人側の自己使用の必要性という一事のみで直ちに認められるものではなく、当事者双方の諸般の事情を総合考慮して社会通念に照らし妥当と認められる必要がある。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)が、建物を使用する必要が生じたことを理由に、借家法…