一 国税滞納処分による差押については、民法第一七七条の適用があるものと解すべきである。 二 登記の欠缺を主張する第三者がこれを主張するにつき正当の利益を有しない場合とは、当該第三者に、不動産登記法第四条第五条により登記の欠缺を主張することの許されない事由がある場合、その他これに類するような、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事由がある場合に限るものと解すべきである。 三 国が国税滞納者に対する滞納処分として登記簿上滞納者名義の不動産を差し押えた場合において、差押の約三年六箇月前に右不動産の譲受人から移転登記の未経由にかかわらず該不動産がその所有に属する旨の財産申告を受け、これを前提として財産税を徴収した事実があつても、それだけでは、国は、登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者にあたらないとはいえない。
一 国税滞納処分による差押と民法第一七七条 二 登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有しない第三者の範囲 三 国税滞納処分による不動産差し押えの場合における国の登記欠缺の主張が正当の利益がないとはいえないとされた一事例
民法177条,国税徴収法10条
判旨
国税滞納処分における国の地位は民事執行上の差押債権者に類するため、民法177条の「第三者」に該当する。過去に当該不動産を他人の所有として財産税を徴収していた事実があっても、それだけで直ちに登記の欠缺を主張することが信義則上の背信的態度にあたるとはいえない。
問題の所在(論点)
国税滞納処分における国の地位は、民法177条の「第三者」に該当するか。また、過去に実質的権利者から徴税していた国が、後に登記名義人に対する滞納処分として当該不動産を差し押さえる際、登記の欠缺を主張することが背信的態度(信義則違反)として否定されるか。
規範
国税滞納処分を行う国は、租税債権につき自ら執行機関として強制執行を行うものであり、民法177条の適用を受ける「第三者」に含まれる。登記の欠缺を主張することが許されない「信義に反すると認められる事由」がある場合に限ってその主張が制限されるが、過去の徴税経緯があるだけでは足りず、納税者がその所有として取り扱われることを強く期待するのがもっともと思われるような特段の事情が必要である。
事件番号: 昭和29(オ)122 / 裁判年月日: 昭和31年4月24日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】国税滞納処分による差押えにおいても民法177条の適用があり、国が「第三者」に該当しないというためには、単に滞納処分の過程で事情を知っていただけでは足りず、納税者の信頼を強く裏切るような「特段の事情」が必要である。 第1 事案の概要:国(上告人)が滞納処分として不動産を差し押さえた際、当該不動産は登…
重要事実
被上告人は訴外会社から本件不動産を買い受けたが、所有権移転登記を未了のままにしていた。一方、国(魚津税務署)は、被上告人からの財産申告に基づき、本件不動産を被上告人の所有として財産税を徴収した。その後、国(富山税務署)は、登記簿上の名義人である訴外会社の国税滞納処分として本件不動産を差し押さえ、公売を実施した。被上告人は、国がかつて被上告人の所有として財産税を徴収しておきながら、後に登記未済を理由に差押えを行うことは信義則に反し、国は「第三者」にあたらないと主張した。
あてはめ
滞納処分時の国は、登記簿上の名義を確認し実質的権利関係を調査した上で差押えを行っており、過去の財産税徴収の経緯を奇貨として利用したとは認められない。財産税徴収から約3年6か月が経過しており、一回限りの申告納税である財産税の経緯を調査しなかったからといって直ちに背信的とはいえない。また、公売制度の信用維持や善意無過失の競落人の保護という公益的要請も考慮すべきである。本件において、国が被上告人の意に反して積極的に所有と認定したり、継続的に被上告人の所有を前提に徴税したりした等の特段の事情がない限り、登記の欠缺を主張することは許される。
結論
国は民法177条の第三者に該当し、本件の事実関係のみでは登記の欠缺を主張することが背信的であるとはいえないため、差押えは有効である。
実務上の射程
国税滞納処分における国の第三者性を肯定した重要判例である。あてはめにおいては、過去の行政処分(徴税等)と矛盾する後行処分がなされた際の信義則適用の限界を示しており、単なる「知っていた(悪意)」を超えた「特段の事情」を要求する極めて厳格な規範として機能する。答案では、国の公益的立場と取引の安全(競落人保護)を比較衡量する際に用いる。
事件番号: 昭和30(オ)705 / 裁判年月日: 昭和34年9月3日 / 結論: 棄却
国税徴収法第一四条の規定は滞納差押財産につき第三者の財産取戻請求手続を規定したものであつて、収税官吏が差押処分又は公売処分をなすに際し公簿の記載を離れて真実の所有者を探究すべき義務あることを規定したものではない。
事件番号: 昭和33(オ)738 / 裁判年月日: 昭和35年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】国税徴収法上の公売処分において、見積価額を記載した封書を公売場所に置くべき手続規定に違反があったとしても、その違法は公売処分を当然に無効とする程度の瑕疵とはいえない。 第1 事案の概要:税務署長が行った建物の公売処分において、見積価額が69万9000円と査定されていた。しかし、当時の施行規則23条…
事件番号: 昭和29(オ)28 / 裁判年月日: 昭和33年6月27日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】農地買収処分において、真実の所有者でない登記簿上の名義人を所有者としてなされた処分は、違法ではあるが当然無効とはならず、取消訴訟の対象となるにすぎない。 第1 事案の概要:所有者BがDに対し本件農地を売却し、Dが有効に所有権を取得した。しかし、登記簿上の名義人は依然としてBのままであった。国は、自…