農地の売買契約において、臨時農地価格統制令(昭和一六年勅令第一〇九号)第三条第一項所定の最高価格を超過した代金額の約定があつたというだけでは、超過した代金額の約定部分が無効となるに止まり、統制価格の範囲内では契約は有効たるを失わない。
価格統制に違反した農地の売買契約の効力
臨時農地価格統制令(昭和16年勅令109号)3条
判旨
強行法規である価格統制令の制限を超える代金額の約定がなされた場合、契約全体が無効となるのではなく、統制価格を超える部分のみが民法90条により無効となり、制限内の範囲では契約は有効に存続する。
問題の所在(論点)
価格統制令の制限を超える代金額で売買契約が締結された場合、民法90条により契約全体が無効となるか、それとも超過部分のみが無効となるか。
規範
公序良俗(民法90条)に関し、強行法規である価格統制令の最高価格を超える代金約定がなされた場合、当該約定のすべてが当然に無効となるものではない。契約の趣旨に照らし、統制価格を超過する代金額の部分のみが無効となり、統制価格の範囲内では契約はなお有効であると解するのが相当である。
重要事実
上告人と被上告人は、農地の売買契約を締結した。当時施行されていた臨時農地価格統制令3条1項に基づき、当該農地には最高価格の制限が課されていたが、実際の約定代金額はこの最高価格を超過していた。上告人は、統制価格を超えた代金約定があることを理由に契約自体の無効等を主張した。
事件番号: 昭和26(オ)542 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 破棄差戻
昭和二〇年法律第六四号による改正後の農地調整法第六条の二所定の最高制限価格を超える額を対価と定めたとの事実のみでは、その農地の売買契約自体を全面的に無効とは為し難い。
あてはめ
本件農地売買において、約定代金額が臨時農地価格統制令所定の最高価格を超過している事実は認められる。しかし、同令の趣旨は不当な価格による取引を規制する点にある。そうであれば、統制価格の範囲内での取引を維持することは規制の目的に反せず、むしろ契約当事者の合理的な意思にも合致する。したがって、超過部分のみを無効とし、残部を有効と解すべきである。また、要素の錯誤(民法95条)の主張についても、相手方が表意者の意思を知っていた等の事情が主張・立証されていない以上、適用されない。
結論
本件売買契約は、価格統制令の最高価格を超える部分についてのみ無効であり、制限価格の範囲内においては有効である。
実務上の射程
強行法規違反(民法90条)による一部無効の法理を示す典型例。物価統制に限らず、利息制限法超過利息の効力など、現代における公法的な規制と私法上の契約の効力を切り分ける際の判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)718 / 裁判年月日: 昭和36年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が主張していない契約条件(代金決済方法等)を認定して売買契約の効力を認めることは、当事者の主張・立証の範囲内であれば弁論主義に反しない。また、特定の買戻し合意や代金決済合意を含む売買契約であっても、直ちに公序良俗に反して無効となるものではない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は上告人(被…
事件番号: 昭和31(オ)694 / 裁判年月日: 昭和32年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地法上の制限等により農地の自由な処分が禁止されている場合において、当該制限に抵触する態様で締結された売買契約は、当初から履行不能なものとして無効である。 第1 事案の概要:上告人らは、農地の売買契約の有効性を主張したが、当該農地は自作農創設特別措置法16条に基づき売渡しを受けたものであった。当時…
事件番号: 昭和28(オ)315 / 裁判年月日: 昭和29年7月16日 / 結論: 破棄差戻
臨時農地等管理令第七条ノ二の地方長官の許可は、農地の所有権移転を目的とする契約の有効要件ではない。