他人の不法行為により生命を害された者の父母が民法第七一一条の規定に基き慰藉料を請求する場合において、たとえ右被害者に過失があつても、その者が行為の責任を弁識するに足るべき知能を具えない幼少者であつたときは、慰藉料の額を定めるにつき民法第七二二条第二項を適用しなくても、違法ではない。
生命を害された責任無能力の子に過失があつた場合に父母のなす慰藉料請求と民法第七二二条第二項
民法711条,民法722条2項
判旨
不法行為による死亡者の父母が慰謝料を請求する場合、死亡者が幼児等の行為責任を弁識する知能を具えない者であるときは、その不注意を過失相殺の対象とすることはできない。
問題の所在(論点)
民法711条に基づく慰謝料請求において、直接の被害者である死亡者が行為責任を弁識する知能を欠く場合、その者の不注意を理由に民法722条2項を適用し、損害賠償額を減額することができるか。
規範
民法722条2項の「被害者に過失ありたるとき」として過失相殺を適用するためには、被害者本人が行為の責任を弁識するに足りるべき知能(事理弁別能力)を具えていることを要する。したがって、死亡者が幼少者等で当該知能を欠く場合には、その者の不注意を直ちに被害者の過失として考慮し、賠償額を減額することはできない。
重要事実
加害者が運転する自動車により、8歳10か月の少女Dが死亡した。Dの両親(被上告人ら)は、加害者に対し民法711条に基づき精神的苦痛に対する慰謝料を請求した。事故の際、Dには車の往来に注意せず漫然と道路を横断しようとした不注意が認められた。加害者は、Dの両親自身に過失がないとしても、死亡したDの過失を考慮して過失相殺を行うべきであると主張した。
あてはめ
本件における死亡者Dは、当時わずか8歳10か月の少女であった。この程度の年齢の者は、社会通念上、自己の行為により生じる責任を具体的に弁識するに足りる知能を具えているとは認められない。したがって、Dが道路横断の際に不注意であったとしても、それを民法722条2項にいう「過失」として評価することはできない。よって、裁判所が慰謝料額を定めるに際し、Dの不注意を考慮して減額しなかった判断に違法はない。
結論
死亡者が責任弁識能力を欠く幼少者である場合、その不注意を理由に過失相殺をすることはできない。
実務上の射程
被害者本人が幼児等で責任能力を欠く場合でも、「被害者側の過失」の理論(監護者の過失等)を用いれば過失相殺が可能になるが、本判決はあくまで「本人自身の不注意」を直接の「過失」として扱うための要件を明示したものとして位置づけられる。答案上、被害者本人の過失を論じる際にはまずこの事理弁別能力の有無を検討すべきである。
事件番号: 昭和40(オ)1056 / 裁判年月日: 昭和42年6月27日 / 結論: 棄却
一 被害者本人が幼児である場合における民法第七二二条第二項にいう被害者の過失には、被害者側の過失をも包含するが、右にいわゆる被害者側の過失とは、被害者本人である幼児と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられる関係にある者の過失をいうものと解するのが相当である。 二 保育園の保母が当該保育園の被用者として被害者たる幼児…
事件番号: 昭和28(オ)91 / 裁判年月日: 昭和32年6月20日 / 結論: 棄却
年令一〇年五ケ月の被害者を責任能力をそなえないものとして、民法第七二二条第二項にいわゆる過失の存在を否定しても不当でない。