民法第七二二条第二項により被害者の過失を斟酌するには、被害者たる未成年者が、事理を弁識するに足る知能を具えていれば足り、行為の責任を弁識するに足る知能を具えていることを要しないものと解すべきである。
民法第七二二条第二項により被害者の過失を斟酌するについて必要な被害者の弁識能力の程度。
民法722条2項
判旨
民法722条2項に基づく過失相殺において、未成年である被害者に必要とされる能力は、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(責任能力)までは不要であり、事理を弁識するに足りる知能(事理弁識能力)があれば足りる。
問題の所在(論点)
未成年者が不法行為により損害を被った場合、民法722条2項を適用して過失相殺を行うためには、当該未成年者にいかなる程度の知能が備わっている必要があるか(過失相殺における被害者の「能力」の要件)。
規範
民法722条2項による過失相殺は、損害賠償額の算定にあたり公平の見地から被害者の不注意を斟酌するものである。したがって、被害者たる未成年者の過失を斟酌するには、不法行為責任を負わせる場合(同法712条)のように「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」を備えている必要はなく、自己の行為から生ずる結果や危険性を認識しうる「事理を弁識するに足りる知能」があれば足りる。
重要事実
被害者らは、本件事故当時、満8歳余の普通健康体を有する男子であった。また、当時すでに小学校2年生であり、日頃から学校や家庭において交通の危険性について十分な訓戒を受けていた。そのため、当時の被害者らには交通の危険性に関する認識が備わっていたと推定される事案である。
事件番号: 昭和28(オ)91 / 裁判年月日: 昭和32年6月20日 / 結論: 棄却
年令一〇年五ケ月の被害者を責任能力をそなえないものとして、民法第七二二条第二項にいわゆる過失の存在を否定しても不当でない。
あてはめ
本件被害者らは、満8歳で健康な小学校2年生であり、教育を通じて交通の危険性を認識しうる状態にあった。このような事情に照らせば、被害者らには「事理を弁識するに足りる知能」が備わっていたといえる。加害者の損害賠償責任を定めるにあたり、公平の観点から、事理弁識能力を有するこれら被害者の不注意(過失)を斟酌して賠償額を減額することは正当である。
結論
過失相殺には事理弁識能力があれば足りるため、本件被害者らの過失を斟酌した原審の判断は妥当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
被害者側の過失を検討する際のリーディングケースである。事理弁識能力の有無は、概ね5歳から6歳程度(小学校入学前後)が基準とされる。また、被害者本人に事理弁識能力がない場合でも「被害者側」の過失(監督者等の過失)として過失相殺が構成される点に注意する。
事件番号: 昭和47(オ)212 / 裁判年月日: 昭和47年6月22日 / 結論: 棄却
責任能力がある未成年者の不法行為において、その過失の有無は、成人と同一の注意義務を標準として定めるべきである。