年令一〇年五ケ月の被害者を責任能力をそなえないものとして、民法第七二二条第二項にいわゆる過失の存在を否定しても不当でない。
年令一〇年五ケ月の被害者の責任能力。
民法722条2項
判旨
不法行為の被害者である未成年者に過失相殺(民法722条2項)を適用するには、責任能力までは不要であるが、事理弁識能力(損害の発生を避けるのに必要な注意をなすべきことを理解できる能力)を備えていることを要する。
問題の所在(論点)
被害者である未成年者の過失を考慮して過失相殺(民法722条2項)を行うために、民法712条が定める責任能力が必要か。また、どのような能力が備わっていれば過失相殺が可能となるか。
規範
不法行為の被害者側に過失相殺を適用する場合、被害者に民法712条に規定される「責任能力」があることは必要ではない。しかし、被害者たる未成年者本人の過失を考慮するためには、その者に「事理弁識能力」(自己の行為の危険性を認識し、損害の発生を避けるために必要な注意を払うべきことを理解し得る能力)が備わっていることを要する。
重要事実
不法行為により傷害を負った当時、10歳5ヶ月の小学校5年生であった未成年者が、加害者に対して損害賠償を請求した。これに対し加害者側は、未成年者本人の過失を理由とする過失相殺を主張した。第一審および原審は、当該未成年者が事故当時、事理弁識能力を備えていなかったと判断し、過失相殺を認めなかったため、加害者側が上告した。
あてはめ
民法712条は加害者としての責任を問うための規定であり、被害者の過失相殺を論ずる場合にそのまま適用されるものではない。本件において、被害者は10歳5ヶ月の小学校5年生であったが、年齢のみをもって当然に事理弁識能力があると断定することはできない。原審が当時の具体的状況に基づき、当該未成年者に事理弁識能力がなかったと認定したことは不当ではなく、能力を欠く以上、その過失を問うことはできない。
結論
被害者である未成年者に事理弁識能力が備わっていない以上、過失相殺を適用することはできない。
実務上の射程
過失相殺における能力の要否に関するリーディングケースである。答案上は、被害者本人の過失を論じる際に「責任能力までは不要だが、事理弁識能力が必要」という規範として用いる。概ね5歳〜6歳以下(幼児)の場合は事理弁識能力なしとして否定されやすく、小学生高学年以上であれば肯定されやすいが、本判決のように個別判断の余地がある点に注意を要する。
事件番号: 昭和29(オ)726 / 裁判年月日: 昭和31年7月20日 / 結論: 棄却
他人の不法行為により生命を害された者の父母が民法第七一一条の規定に基き慰藉料を請求する場合において、たとえ右被害者に過失があつても、その者が行為の責任を弁識するに足るべき知能を具えない幼少者であつたときは、慰藉料の額を定めるにつき民法第七二二条第二項を適用しなくても、違法ではない。
事件番号: 昭和27(オ)722 / 裁判年月日: 昭和30年1月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】過失相殺(民法722条2項)は、被害者に生じた損害の総額に対して必ず一律に行わなければならないものではなく、項目別など個別の算定過程において適用することも許容される。 第1 事案の概要:上告人は、三輪車と相手方の車両がすれ違う際の事故により損害を被った。原審は、三輪車が右方に寄る以前の状況や事故態…